ダイアナ妃の悩みとは

——宮殿でお会いになったダイアナ妃はどのような印象でしたか?

鳥丸 将来、女王様になる方なので、おつきの方が大勢いて大変だろうと思っていたら、誰もいないんです。ダイアナ妃が一人で迎えてくれました。挨拶をしたときに、「アフターシェイブは何ですか?」と聞かれたので「いえ、これはオードトワレです」と答えたら「すごくいい匂い。あなたにぴったりよ」とおっしゃったので、それ以来、私はそのトワレ一筋です。「ジヴァンシー・ジェントルマン」。いまでもつけていて、周囲の人が、匂いだけで「いまここにユキがいたね」とわかるくらいです。

——(笑)ダイアナ妃効果、そこまで大きいとは!

鳥丸 ミステリアスなパワーをもっていた人です。ダイアナ妃は目で会話します。感情がすぐに目に現れるので、嘘をつけない人ですね。

 それで、試着したい、とおっしゃったので「もちろんどうぞ」と答えたら、その場で服のボタンをはずしはじめたのです。困ったなあ、将来女王様になる方の下着姿を見ちゃいけないなと思って部屋を出ようとしたら、「そこにいなさい」と言ってくれたので、窓際に行って、外を眺めていました。ハイドパークが草ぼうぼうだったのですが、「なんと美しい景色でしょう」とあえて大きな声で言ったら、うしろでクスクスっと笑っていました。

 部屋には『ミッション』という映画のサウンドトラックが流れていました。エンリコ・モリオーネの。この曲が大好きで毎日かけているとおっしゃっていました。

——まるで映画の一場面を見るようなエピソードです。それで、最終的にブルーに決められたのですね?

鳥丸 はい。ひととおり決まった後、「実は悩みがあるんです」と告白されました。聞いてみると、日本に行くのに箸が上手に使えない、と。「教えます」と言うと、台所にあったプラスチック製の中国の巨大な箸をもっていらしたのでその場でお教えしました。もう一つの悩みは、お辞儀のやり方がわからない、ということでした。みなさまがプリンセスにお辞儀をするのであって、プリンセスは会釈を返せばよいのです、とお伝えしたら安心なさっていました。ダイアナ妃は完璧主義者なのですね。日本人に批判されない振る舞いをしたいと努力していたのです。(続く)

鳥丸軍雪