「どうして私のサイズを知っているの?」
——ダイアナ妃が来日した際、最後の夜に天皇陛下との晩餐会で着用された軍雪さんのロイヤルブルーのドレスにも、タイムレスな美しさがありますね。
鳥丸 装飾のポイントになっている部分に竹ビーズを使いました。スパンコールだと丸型ですが、竹ビーズだと直線部分が表現できるので、布の直線プリーツに逆らわないのです。アクセサリーをつけなくても華やかさを出せる装飾です。
——そこまで細やかに考えられたデザインなのですね。どのような経緯で軍雪さんがあのドレスを創ることになったのですか?
鳥丸 ダイアナ妃の訪日が決まってから、日本のジャーナリストから問い合わせがくるのです、「ダイアナ妃は軍雪さんのドレスを着られるのですか?」と。でも2週間前になってもまだ宮殿からオーダーが来ていなかった。これは何とかしなくてはと思いました。
そこで、イギリスで父のように接してくれていたドロイダー卿( Charles Moore, 11th Earl of Drogheda / Garrett Drogheda として知られる)に頼んでみたのです。卿は王室とのコネクションがあり、とても自然なやり方で私をダイアナ妃に勧めてくれました。ダイアナ妃が興味をもってくださったので、すぐにスケッチを送ったところ、翌日、ドレス持参で会うことになりました。
実はその前に、ダイアナ妃のワードローブのアドバイザーをしていたヴォーグの編集者、アン・ハーヴェイに一応、連絡していたのです(*ハーヴェイは2018年に逝去)。一応、筋を通さねばならないと思って。電話をしたら、「私は王室とは関係ないですから、なんともできません」としらじらしく断られました(笑)。私は東洋人なので、「得体のしれない人間」扱いされており、それとなく、重要なイベントから排除されるのですね。
——うわあ、慇懃な人種差別ですね。でも軍雪さんには強力な王室コネクションがあったからそこを突破できた。しかもドレスをすでに用意していたという備えがすごい(笑)。2週間で具体的に話が進んだのはとても幸運でしたね。
鳥丸 私はラッキーな人間で、いろいろ起伏はありましたが、案外、人生はとんとん拍子にいっています。
ダイアナ妃に着てほしいなというイメージがあったので、まずあらかじめドレスを制作していたのです。白、赤、青の三着です。白はダイアナ妃のピュアなイメージ、赤は妃の情熱、そしてブルーは「ロイヤル」な色。サイズも、もともとうちで働いていた人がダイアナ妃の服を作っているところに移籍したので、こっそり聞いていました(笑)。だからドレスを試着したダイアナ妃は驚いていましたね。「どうして私のサイズを知ってるの?」と。「スパイを送りました」と答えましたが。