文=甲斐みのり 撮影=平石順一
珍しい瓶入りのツナ
あと数日で新しい年に変わる昨年の年の瀬に、静岡から贈りものが届いた。送り主は、“第二の静岡の母”と慕うKさん。中身は、箱から出して目にした瞬間心が浮き立ち、蓋を開ける前からすでに、こだわりやおいしさが伝わってくる瓶入りのツナ。普通、ツナは缶入りのイメージが強いからか、瓶の中のツナは透き通ったオイルやさまざまな食材をふんわりとまとい、自由で伸びやかで生き生きとして見える。
静岡は私の故郷ではあるけれど、大学から他の土地へ出てしまい、その後は年に幾度か帰省するのみ。少し前まで地元のおいしい味に疎かったのだが、静岡の海山の幸を届けてくれるKさんに、生まれ育った土地の豊かさを改めて教えてもらっている。
静岡県内で水揚げされたビンチョウマグロを使用
Kさんが生まれた静岡県焼津市は、国産ツナ発祥の地。そこで一つ一つ、丁寧に手作りされているのが、マグロのオイル漬け専門店〈おつな〉が手がける、自家製のツナ。静岡県内で水揚げされたビンチョウマグロの中から、鉄分が少なく身が白いマグロを選ぶことが、純白で柔らかく自然の旨味を感じられるツナ作りの核になるそう。
マグロを仕入れているのは、鮮魚店を経て小料理店を営み、20年築地に通った経験を持つ、店主の関根仁さん。料理店時代に残ったマグロでツナのオイル漬けを作ってみたのをきっかけに、自家製ツナの探求が始まり、ついには専門店を開くまでに。
ミネラル豊富な駿河湾の海洋深層水・利尻昆布・国産の乾燥しいたけで作ったスープや、有機栽培の紅花油・こめ油・ごま油などブレンドしたオイル、研究を重ねて辿り着いた素材を使用し、火入れ、ほぐし、瓶詰めまでを手作業でおこなっているという。
そのままでも料理に使っても美味しい
現在、味は全部で12種類。基本のツナに、ローリエ、タイム、ピンクペッパーを加えた、もっともシンプルな「プレーン」でさえ、いわゆる缶詰のツナとは異なる豊かな風味。最初に箸で持ち上げたとき、ふわっと軽やかなのに驚き、口に含んでさらに、優しくまろやかな口当たりに顔がほころんだ。マグロの旨味をめいいっぱい含んだオイルも、余すことなく使い切りたくて、最後は慎重にスプーンで皿に移した。
他にも、「ジェノベーゼ」「えごま味噌」「燻製粒マスタード」「ポルチーニ」「実山椒」「無花果&胡桃」など、素材の組み合わせがユニークかつ絶妙。どの味も、パン、パスタ、野菜、チーズ、さまざまな料理に合わせることができるが、シンプルに炊きたてのごはんにのせるだけでも、食卓が贅沢な空間に変わる。
日本では、めでたいときに鯛を味わうように、食と言葉をかけあわせて、祝い事をしたり、縁起をかつぐ習慣がある。
~「乙なもの」「繋がる」「大切な」「特別な」~
どの言葉にも「ツナ」が入っているように、いつまでも“繋がって”いたい“大切な”人への“乙な”贈りものに、おつなの自家製ツナはぴったりだ。ギフト用の箱にデザインされた七宝や麻の葉も、おめでたい柄とされているので、結婚式の引き出物にしても喜ばれるだろう。