文=甲斐みのり 撮影=平石順一

原宿はちみつ&紅玉のアップルパイ 1944円(税込・送料別)発売元=コロンバン

日本初の本格的なフランス菓子店

“おいしさ”の基準や好みは人それぞれあるけれど、“食べることを楽しむ”ことに興味を抱き始めた若き日に、一つの指針となったのが老舗の味。和菓子、洋菓子、和食、洋食、喫茶店、居酒屋、酒場・・・。祖父母が生きた時代から長く続く店の味を背伸びしながら食べ歩き、自分の中でおいしさを感じる上での柱ができた。

 素材や調理法やサービスへのこだわりとともに、老舗の味に趣をもたらすのが、時の重なりに内在する物語。創業から今にいたるまでの歴史の中に、とびきりロマンチックでドラマチックなエピソードがいくつもあり、それらを知った上で味わうことでさらに深みを感じられる。

 宮内省大膳寮員を拝命し天皇陛下に料理を出す栄誉を賜った門倉國輝が、菓子製造視察研究のために渡仏したのち、1924年(大正13年)に日本初の本格的なフランス菓子店を開いたのが「コロンバン」の始まり。創業当時に考案された日本風のショートケーキは、100年近く経つ今も大人から子どもまで日本中で愛されている。

 昭和初期には、フランス風にサロンを併設した店舗を銀座に構え、藤田嗣治の天井画が彩っていたという。皇族の方々や宮内庁へのお届けには、当時は非常に珍しいダットサントラック14型を使用し、人々の憧れの存在だった。

 

ご学友とお忍びで・・・銀ブラ騒動

 そんな歴史あるコロンバンの中で、今回紹介する「原宿はちみつ&紅玉のアップルパイ」は、上皇陛下への尊敬と敬愛を込めて「殿下のアップルパイ」とも呼ばれている。それというのも、若き日の上皇陛下が、コロンバンのアップルパイを召し上がったエピソードがあるからだ。

 ときは1952年(昭和27年)。上皇陛下が学習院高等科3年生の頃、仲のいいご学友とともに、学校のある目白から山手線に乗って新橋で下車。お忍びで銀ブラを楽しみながら、銀座7丁目にあったコロンバン銀座本店の喫茶フロアで、アップルパイと紅茶をお召し上がりになられた。まるで映画『ローマの休日』のような出来事が現実に起こったのだ。東宮職や警備の警察は大騒ぎになったというが、思い返せばなんとも微笑ましい若き日の上皇陛下の大きな冒険だったろう。

そのままでもおいしいが、温めるとより一層、パイやりんごの風味が味わえる。温めたパイと冷たいアイスクリームをあわせた「アップルパイアラモード」にしても。

 現代の嗜好に合わせ甘さは多少控えめにしているが、コロンバンは今でも、上皇陛下が味わった当時と同じレシピで、ホールサイズのアップルパイを作り続けている。

 材料には、パイ1台に対して青森産の紅玉りんご2個を贅沢に使用。あらかじめシロップ煮したりんごを、さらに砂糖や無塩バターを合わせた特製シロップに一晩漬け込み、シャキシャキとした食感を残しながら、甘さや酸味のバランスよく風味を付ける。パイそのものは、芯までじっくり焼き上げることで、表面の網目はパリパリに、土台はサックリとした歯切れのいい食感が楽しめる。

 コロンバンは2010年(平成22年)から、自社ビルの屋上で養蜂に取り組んできた。自社で飼育するミツバチが、明治神宮、代々木公園、赤坂御所、新宿御苑などで集めた花蜜で作るはちみつを「原宿はちみつ」と名付け、栄養価の高い希少な国産はちみつを、さまざまなお菓子に取り入れている。「原宿はちみつ&紅玉のアップルパイ」も、別添えの原宿はちみつをかけることで甘みにさらなる奥行きが加わり、より贅沢な風味に。

 今までは羽田空港限定での販売だった「原宿はちみつ&紅玉のアップルパイ」だが、人気により2020年11月から冷凍配送による通販を本格的に開始。これからの季節、暖かい部屋で、家族や友人たちと、「殿下のアップルパイ」のエピソードとともに味わいたい老舗の味。カットしたアップルパイに添えるのは、上皇陛下がそうしたように、温かな紅茶が合うだろう。