全編に流れる往年の名曲
だが、それこそがザ・バンドのリアルな軌跡であり真実。これまでも多くのミュージシャンの伝記映画が公開され、彼らの栄光と挫折が描かれてきた。近年も『ボヘミアン・ラプソディ』(18)『ロケットマン』(19)などが大ヒット。観客は栄光の裏に隠された真実に衝撃を受けながら、改めて彼らの音楽に触れ感動する。
本作は脚色された伝記映画とは一線を画したドキュメンタリーというのもザ・バンドらしい。ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ブルース・スプリングスティーン、ヴァン・モリソン、ピーター・ガブリエル、タジ・マハール、ロニー・ホーキンス、故ジョージ・ハリソンら錚々たるミュージシャンが証言者として出演。当時、彼らと暮らしていたロバートソンの元妻ドミニック(離婚していたことを知らなかった!)の証言もまた貴重だ。伝記映画以上に映画的な物語を語っている。
全編にわたって流れるザ・バンドの曲が、アーカイブともいえる写真と共にじわじわと沁みてくる。何よりもスクリーンで再びザ・バンドの音楽と伝説を体験できたことが嬉しい。リヴォン・ヘルムの歌声が特に好きだった。20年ほど昔、旅先で会った米国人がザ・バンドを知らないことに衝撃を受け、彼らがどんなに多くのミュージシャンから尊敬されてきたかを熱く語ったことを思い出す。映画はそんな若い世代にも彼らの魅力を伝えられる、最高の存在だと思う。『ラスト・ワルツ』と共に、何度でも見たい一本だ。