ボブ・ディラン、エリック・クラプトンをはじめ、多くのミュージシャンたちに愛された唯一無二のバンドの誕生と栄光、伝説の解散ライブ「ラスト・ワルツ」まで――を追った貴重な本作は、ロビー・ロバートソンの自伝が2016年に出版(日本では2018年に翻訳され出版)されたことをきっかけに、映画化の話が始動。いろんな製作会社が名乗りを上げ、最終的にカナダのホワイト・パイン・ピクチャーズが製作することに決まった。そして、嬉しいことにスコセッシも製作に参加、証言者の一人として出演を果たしている。

 監督はロバートソンと同じくカナダ出身の新鋭、ダニエル・ロアー。まだ20代と若い彼は両親を通じて、ザ・バンドの音楽に興味を持ったという。世代を超えてザ・バンドの遺産が受け継がれていることに胸が熱くなる。しかもデビューアルバム「ミュージック・フロム・ビック・ピンク」を制作していた当時のロバートソンと、2017年より撮影を始めたロアーは同じ24歳。シンパシーを感じたロバートソンが細部にわたって貴重な話を披露、個人的な写真や映像、コレクションを提供したことで、本作はより深みを増した。

 過去のさまざまな出来事を振り返りながらにこやかに語るロバートソンはとても健康的に見え、ふっくらした顔つきからも今の生活の充実ぶりが分かる。77歳になった彼は今も現役で、『ラスト・ワルツ』をきっかけに意気投合したスコセッシの映画音楽を『レイジング・ブル』より担当。昨年公開され、アカデミー賞9部門にノミネートされた『アイリッシュマン』(19)にもエンディング・テーマほか数曲を提供している。

 

ロバートソンが語るザ・バンド

 物語はロバートソンの出生から始まる。13歳の時に聴いたロックンロールに衝撃を受け、バンドを結成。やがてカナダで人気を博したロカビリー・シンガー、ロニー・ホーキンスが率いるザ・ホークスの前座を務め、1959年には一員に。すでにメンバーだった米国人ドラマー、リヴォン・ヘルムと意気投合し、その後、カナダ人のリチャード・マニュエル、リック・ダンコ、ガース・ハドソンが加入する。10代の彼らが瑞々しい。

 そしてボブ・ディランと出会い、65~66年は彼のバックバンドとしてツアーに参加。だが当時、フォークからロックへの過渡期にあったディランの音楽は不評で、ツアーはブーイングの嵐だった。疲れたヘルムはバンドを脱退し、油田で働くため(!)に帰国する。

 再び5人が集結するのは68年のデビュー前夜。4人はウッドストックに移住し、ピンクに色塗られた家ビッグ・ピンクでの生活をスタート、本格的なアルバムデビューのため、ヘルムを呼び寄せた。そして彼らは兄弟のように暮らし、絆を深め、独自の音楽を作り上げていく。まさにこの頃が、名声を手に入れ高評価を得たザ・バンドの全盛期だった。

長年、リヴォン・ヘルムとの確執があったとされるが、ロバートソンはヘルムの病院に赴き、意識のない彼の手を握り、語りかけたという

 しかし、結婚をして子どもにも恵まれたロバートソン以外のメンバーはアルコールやドラッグに溺れ、次第にメンバーの気持ちはすれ違う。成功と挫折、才能と狂気、友情と別離、苦悩そして崩壊。本作を見ていると、最後の饗宴「ラスト・ワルツ」の成功は奇跡だったとも思える。本作のテーマ曲〈ワンス・ワー・ブラザース〉で繰り返される「かつて僕らは兄弟だった。でも、今は違う」の歌詞はあまりに悲しい。