物語はメロディに似ている

平野:ぼくも音楽が好きでよく聴きますけど、メロディを書けるのは大きいんじゃないですか。文学だと物語というのがメロディに似ているところがあって、豊かな物語を書ける人と書けない人では、すごく違いがあります。物語がいいと、その世界を多くの人が受け止められますけど、それが弱いとどんなスゴイことを書いても、ちょっと、という感じになるんですよ。

高橋:それが軸だとすると、ディテールは後でもいいわけですよね。

平野:そうなんです。ひところ、文学では物語がいくつかのパターンに当てはまるということで、マンネリだと物語批判みたいなのがあったんです。やっぱりそうやって出てきた作品はあまり読まれない。ちょっと頭でっかち過ぎるというか。音楽も別にいつもキャッチーなメロディがあるからいいって訳ではないですけど。

高橋:そうですね。音楽はそこにどんな詞が付くかで変わっちゃいますから。組み合せかなぁ。その人の美意識ですね。

平野:さきほどの話ですが、作曲というのは、鼻歌みたいなものからはじまるってわけでもないんですか。

高橋:あります、それは。それをピアノを弾きながらコードを付けていったりって感じですかね。でも、これはどこかで聴いいたことあるな、っていうのが多いですけどね (笑)。

平野:いままでに大体何曲くらいレコーディングされたのでしょうか。

高橋:ソロ・アルバムはオリジナルで23枚。バンドを入れると数え切れないです。

平野:ご自身で聴き直したりするんですか。

高橋:昔は聴き直さなかったですけど、『Saravah!』の当時のマルチテープをもとに新たに『Saravah Saravah!』をつくったことを機に、最近はたまに聴きます。

平野:たとえばスティングも、ポリスのころは自分たちでやろうとしていたけれど、ソロになってからは結局ジャズミュージシャンとか上手い人を連れてきたり。音楽のやりたいことが広がっていくと、音楽の演奏方法を自分で身に着けるより、いろんな人と交わっていくようなことが増えていくと思うんですけど、ジャンルによってやり難いってあるんですか。

高橋:ジャンルというよりも人ですね。だいたい一緒にやってみるといい人が多く、作業しやすいんですが、なかには気難しい人も結構いました。

平野:DVDを拝見して、そのMCで若いときの自分とのセッションみたいな言葉を使われてましたけど、かつての自分とのセッションは、どういう風に見えますか。

高橋:やっぱり恥ずかしいですよ。歌詞の世界とかは。当時のつくっている頃の気持ちは少しは覚えていますが、じつは書いてることにあまり根拠はないんです。立花道造や中原中也が好きだったりするから、そのまま持ってきてますから。

平野:でも音楽は、再現ライブでもカッコよくて。時代を感じないというか。

高橋:いま聴くと、みんな上手いなぁっていうのは感じますね。でも、自分は何を考えてたんだろう、というのはありますけどね。

カッコいいを真面目に探求した本がない

平野:ぼくは最近『「カッコいい」とは何か』(※9)という本を書いたんです。日本語で「カッコいい」という言葉は、20世紀後半のいろんな文化やシーンで役割を果たしたと思うんですけど、その割にカッコいいという言葉について真面目に書いた本が一冊もなくて。しかも、人によってカッコいいと思っていることが違う。ジェームズ・ブラウンがカッコいいと言う人もいれば、矢沢永吉がカッコいいと言う人もいる。おなじ言葉を使っているのに、意味していることがまったく違ったりするんです。

高橋:最近は、英語でいう「クール」という言葉が使われていて、でも「オーサム」というのもヤバいとおなじじゃないですか。

平野:スゴい! ってことですね。

高橋:基本的にはおなじでしょ。でも最近はヤバいってのも、ホントにヤバい意味になってきたんですね。

平野:両方使ってますよね。

高橋:両方なんだ。使い分けが難しいなぁ(笑)。カッコいいも、人によって違いますからね。ファッショナブルなことがカッコいいわけではないし。

平野:スタジオとか音楽の現場で、これちょっとカッコ悪いな、とか、そういう言葉は使うんですか。

高橋:あります。「わー、それカッコ悪いね!」とか言いますよ。スタジオ・ミュージシャンだった頃は、そんなものだらけでしたよ。だから愛がなくなっちゃうんですね、プレイにも。譜面だけ見て、プレイして、お金もらって帰ろうみたいな感じがありましたからね。あの世界は、あまり長くやるもんじゃないですね。でも、いまはスタジオ・ミュージシャンとは言わないんです。サポート・ミュージシャンですね。

平野:そうですか。もうスタジオ・ミュージシャンって言わないんですか。

高橋:いまスタジオだけやってる人って、あまり見かけないですね。弦とかで音大の学生たちとかを集めたりすることもあるけれど、みんなスタジオ・ミュージシャンという意識ではやってないと思います。もちろん、お金をもらうプロですけど。

平野:日本でカッコいいという言葉が広まったのは、1960年代の初めくらいらしいです。もともと使い出したのは戦中で、ジャズミュージシャンだったらしいです。音楽業界人が使い出して、その後、テレビに乗って全国的に広まっていったんです。