日本を代表する大企業にも動き
アサヒビールに見るWeWork活用術

 今まさに進行中のプロジェクトもある。「WeWork東急四谷」(東京・四ツ谷)のメンバーであるアサヒビール株式会社の取り組みだ。

 同社は、32年ぶりに外部から役員を招いた。同社専務の松山一雄氏だ。言うまでもなく、アサヒビールは「スーパードライ」を軸とした商品を世に送り出す“超”が付く優良企業だ。新卒者の人気も高い。だが、同社にとって異例の人事から見えてくるのは、いかに現在の事業が盤石であっても、激変する経営環境の下では油断は禁物だという警戒感だ。時代は変化に強い組織を求めている。

 今回、アサヒビールのWeWork入居を主導したのは、ほかならぬ松山専務自身だという。松山氏はアサヒビールに加わり、同社が130年にも及ぶ伝統ある企業ゆえの弊害を持っていることを実感したという。自前主義が強く、新しいことに取り組むスピードが遅い。そうした企業が異文化との接触を志向しようとする時、WeWorkは絶好のカルチャーを持っている。そう感じての決断だったのだ。

松山専務直下の事業推進室始動とWeWork
変化への歩みを進めるアサヒビール

 アサヒビールには明確な新事業のイメージがあったわけではない。ただ、経営全般、中でもマーケティングの領域で改革を起こしたいという思いがあり、松山専務は直下に「事業推進室」を設けた。決裁も予算執行も松山専務が行う。アサヒビールにとって異例の組織だ。

左からアサヒビールの浜田氏、濱田氏、三橋氏 撮影:小瀬川理恵

 今回取材で話を聞いた事業推進室担当部長の浜田晃太郎氏は開発・研究・技術戦略担当、担当副部長の三橋憲太氏は経営企画・営業戦略担当、同じく担当副部長の濱田美晴氏はデジタル・マーケティング戦略担当。全員WeWorkに席がある。確保したのは東急四谷の4席ある1室だ。もう1席は、プロジェクトに必要なスタッフを都度組み入れるために空けてあるという。

 事業推進室の陣容は全部で8名(2019年8月現在)。全部署から中堅の優秀な人材を集めた横断型の構成だ。経営企画から商品開発、生産、営業などがそろい、いわば同社の縮図である。そこからWeWorkに入った3人は、新しいきっかけを確実につかみ、ワンストップで本社につなぐミッションを負う。

 WeWork入居に当たり、格別のKPIはないという。「まずは何が必要なのか探ってこい」というのが使命だ。言わばリサーチフェーズというわけだが、伝統的な企業の一角にイノベーションの空気を吹き込む効果は大きい。強固な体制で主軸事業を推進する企業では、変革の兆しは生み出しづらい。アサヒビールは、WeWorkを触媒にして変化の一歩を踏み出したかっこうだ。このアプローチは、多くの企業の参考になるだろう。