NECデータサイエンス研究所の柏谷篤シニアマネージャー(右)と江藤力主任(左)

 NECは2019年7月、熟練者の意思決定を模倣するAI(人工知能)技術を開発したと発表した。新技術は過去の行動履歴データから熟練者の「判断の意図」を高速に学習する。

 テレビ局が流すコマーシャルのスケジューリング業務は、従来経験豊富な熟練者が時間帯や番組内容、視聴率など複数の条件を踏まえながら放送枠を調整している。この業務にAI技術を適用したところ、熟練者と同等の意思決定を10倍以上のスピードで実現できたという。NECは今年度中にも商用化する考えである。

行動履歴から意図を汲み取る

 最大の特徴は、意思決定の拠り所を人手でAIに与えるのではなく、AIが行動履歴データから熟練者のさまざまな意図を汲み取って学ぶ点である。

 一般にAIによって意思決定の最適解を自動で導き出すには、最適解に近づけるための根拠として、判断の良し悪しを判定する基準となる数式が必要になるという。しかし、現実には「意思決定の際に何をもって“良し”とするかが熟練者一人ひとりの頭の中にあり、簡単に定式化できないケースが多い」と柏谷篤データサイエンス研究所シニアマネージャーは話す。

 今回のAI技術は、このように数式で定義することが難しい属人的な業務における意思決定の最適化を可能にする。具体的には、熟練者が日ごろ特段意識せずに考慮している各種制約や、判断のポイントや重み付けの傾向をAIに習得させる。そうすることでAIが熟練者と同じ判断基準で意思決定できるようになる。

隠れた制約条件も発見して学習

 自動車の運転を例にすると、大量の運転履歴データがAIの意思決定の手本になる。ドライバーが走行ルートを決める際に考慮するであろう「目的地と現在地との位置関係」「目的とする走行速度と現在の速度の差」「ステアリングの向き」「アクセルの踏み込み」「前後の車間距離」「燃費」などの変数を踏まえたシンプルな数式を用意。どの要素を重視するかというドライバーの傾向をAIが運転履歴データから読み解き、変数に重み付けを与えてドライバーと同じような意思決定をする方法を反映した数式を完成させる。

 渋滞状況や天候といった条件によってドライバーが重視する要素が異なる傾向があれば、判断基準が変わる条件をAIが判別し、条件ごとに異なった重み付けをする。例えば、雨の日の渋滞中は目的地までの距離よりも車間距離を重視し、晴れの日の空いた道路ではスピードと燃費を重視する数式を作成する、というようなことだ。