東京都庭園美術館で開催中の「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」は、建築とジュエリーが互いに「対話」する空間のなかで、100年前の革新的な美意識を追体験できる貴重な展覧会である。「現代装飾美術・産業美術博覧会(通称 アール・デコ博覧会)」から100周年という節目の今年、実際に朝香宮夫妻が住んだアール・デコ様式の邸宅のなかに、フランス高級宝飾の老舗ヴァン クリーフ&アーペルの歴史的遺産が、文字通り「生活を彩る実用芸術品」として展示され、全方位からアール・デコを堪能できる。

取材・文=中野香織

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924年 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels

生活芸術を体現した館に、実用芸術としてのジュエリー

 9月26日の記者会見で、東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の副館長・牟田行秀氏は、まず会場となる建物そのものの特異性を強調した。

「邸宅は1933年に建てられ、内装には1925年パリのアール・デコ博で活躍したアンリ・ラパンやルネ・ラリックらが関わりました。彼らが送ってくれた図面や資材をもとに、日本の匠の手で実現されたのです。最先端の素材と伝統的な技術の融合が、この建物を唯一無二の存在にしています」。

会場風景 東京都庭園美術館 本館 大客室 ©Van Cleef & Arpels

 当時の姿をこれほど完璧に保ったアール・デコ建築は、世界的にも稀だとされる。そこにヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーが並ぶことで、建物とジュエリーが一体となった空間のなかにアール・デコの真髄を体感できる。

 牟田氏はまた、ジュエリーを「究極の実用品」と定義する。絵画や彫刻のように鑑賞を目的とするのではなく、身につけることで人生に喜びを与える存在である点に、装飾芸術の本質があると語る。この視点に立てば、朝香宮邸とヴァン クリーフ&アーペルの作品は、「生活を豊かにする芸術」という思想を共有していることになる。

 思い起こせば、アール・デコ博覧会以前には、絵画や彫刻といった純粋芸術が「高尚」とされる一方で、工芸やジュエリー、さらにはファッションは応用芸術と位置づけられ、純粋芸術と比べ評価が低かった。1925年のアール・デコ博は、そうした序列を打ち破り、実用芸術を正当な芸術として評価するために開催された一大転機だったのである。

記者会見にて。左から東京都庭園美術館副館長の牟田行秀さん、 同美術館学芸員の方波見瑠璃子さん、ヴァン クリーフ&アーペルのパトリモニー&エキシビション ディレクター、アレクサンドリン・マヴィエル=ソネさん、会場構成を担当した西澤徹夫さん。撮影:中野香織

 展示を構成した方波見瑠璃子・東京都庭園美術館学芸員は、「この展覧会の一番の見どころは、作品も空間も本物のアール・デコということ」と語る。歴史的価値が認められた作品からなるヴァン クリーフ&アーペルの「パトリモニー コレクション」と個人蔵の作品群のなかから選び抜いた名品を、四章に分けて展示している。