農民たちの豊かな表情と動きを表現

「季節画」では農村の自然とそこで生きる人々を描きましたが、この後、農民の風俗を描いた作品を残しています。《農民の婚宴》(1568年頃)は、大きな納屋で開かれている婚宴の様子を描いた作品です。第1回で紹介した《農民の踊り》(1568年頃)と対(つい)になっていたとも考えられています。

 扉に乗せて運んでいる浅いお皿に入っているのは蜂蜜が入った麦で作った「ブレイ」というお粥、大きな壺から男が注いでいるビールなど、ご馳走とお酒を前にした農民ひとりひとりの表情と動きを豊かに描いています。

《農民の婚宴》1568年頃 油彩・板 143×164cm ウィーン、美術史美術館

 また、踊っている農民の姿からあたかも音楽も聞こえてくるような《野外での農民の婚礼の踊り》(1566年)は、見ている私たちもその中にいるように感じられる躍動感のある作品です。

《野外での農民の婚礼の踊り》1566年 油彩・板 119×137cm デトロイト、デトロイト美術館

 後世、ブリューゲルが「農民ブリューゲル」と呼ばれるようになったのは、長男ピーテルが成長して画家となり、亡き父の作品を模写した際にこの《野外での農民の婚礼の踊り》をたくさん制作し、それが広く流通したためだという説もあります。

 しかし、農民をここまで生き生きと描写し、彼らの一瞬の動きや表情を捉えたことは、ブリューゲルの突出した才能にほかなりません。

 

参考文献:
『ブリューゲルの世界』森洋子/著(新潮社)
『ブリューゲルとネーデルラント絵画の変革者たち』幸福輝/著(東京美術)
『ピーテル・ブリューゲル ロマニズムとの共生』幸福輝/著(ありな書房)
『図説 ブリューゲル 風景と民衆の画家』岡部紘三/著(河出書房新社)『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』佐藤直樹/著(世界文化社)
『ブリューゲル(新潮美術文庫8)』宮川淳/著(新潮社)
『ブリューゲルへの招待』小池寿子・廣川暁生/監修(朝日新聞出版)
『芸術新潮』2013年3月号・2017年5月号(新潮社)
『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝―ボスを超えて―』図録(朝日新聞社)
『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展公式ガイドブック(AERA Mook)』(朝日新聞出版)
『ブリューゲル展 画家一族150年の系譜』図録(日本テレビ放送網@2018)  他