ラクダ、ヒョウ、ゾウが次々に来日
ほかにも金魚やウサギなど、現代でも人気の動物たちがいっぱい。珍しいところでは、ウズラ。キジ科に属する野鳥のウズラは雄の声が珍重され、江戸時代初期からウズラを飼う愛好者が増えた。そうした趣味人の間で流行したのが、ウズラの鳴き声を競うコンクール「鶉合(鶉会)」。江戸時代後期制作の《鶉会之図屏風》には48人もの参加者が自慢のウズラを出品し、声の良し悪しを聞き分ける様子が描かれている。
江戸時代は諸外国から渡来した動物を見物する機会も増加。1821(文政4)年にオランダから舶来したラクダ、1860(万延元)にオランダから横浜に舶来したヒョウ、1863(文久3)年には天竺(インドあたり)からゾウもやって来た。こうした異国の動物は見世物で公開され、会場は大賑わいになったという。
あの嫌われ者も人気の動物だった
現代では家の建材や食料を齧り散らし、嫌われ者のイメージが強いネズミも江戸時代は人気の動物だった。明和年間(1764~71年)頃からネズミブームが始まり、ネズミの浮世絵や飼育書が数多く発行された。
もちろん今の時代と同じくネズミによる被害はあったのだが、ネズミは大黒天の使いと見なされ、信仰の対象になっていた。1787(天明7)年発行の『珍翫鼠育草』には「必ず鼠集まる時には吉事あり」との一文がある。ネズミは幸福をもたらす存在だったのだ。
だが、ネズミへの尊敬と信仰は1899(明治32)年からのペストの流行で決定的に変わった。ペストの媒介者であるネズミを捕獲して持参すれば、役所で現金が受け取れる。人々はペストへの恐怖から次々とネズミを捕らえた。東京市が買い取ったネズミの数は、約300万匹にも及んだという。
「どうぶつ百景」は実に楽しい展覧会。作品を鑑賞するのはもちろん、動物を通して歴史上の逸話や知られざる物語に触れることができる。これから人間は動物たちとどんな関係を築いていけばいいのか、そんなことも考えさせてくれる素敵な展覧会だ。