遠いようで近い、近いようで遠い、現代社会の人と人との距離感。国際的に活躍する8名と1組のアーティストが社会と個人のあり方を問う展覧会「遠距離現在 Universal / Remote」が国立新美術館にて開幕した。

文=川岸 徹

「遠距離現在 Universal / Remote」国立新美術館 2024年 展示風景 Photo by Keizo Kioku
エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年

現代アートは時代を映す

 2024年、現代アートの展覧会が例年に増して数多く開催される。円安や保険料の高騰を受けて海外から価値の高いオールドマスター作品を借りにくくなったことも一因だが、何より「今の時代」に対する関心が強まったことが要因だろう。

 コロナ禍を経て日本と世界は今後どうなっていくのか。少子高齢化や広がる格差などの社会問題を解決することはできるのか。地球環境を改善するために何をしなければならないのか。ロシアとウクライナの戦争はいつ終わるのか。LGBTQやルッキズムに関する課題とはどのように向き合っていくべきか。人間はAIに取って代わられるのか。

 今という時代が抱える問題について、現代作家たちはそれぞれの解釈や思いを込めて作品を制作している。現代アートの展覧会はなんだか足が向かなくてという人も多いだろう。でも、訪ねてほしい。現代作家の制作意図や作品が内包する深い示唆に触れることは、私たちが自分の生きる道を探る気づきや手がかりになる。

 

コロナ禍で感じた思いを忘れないで

 3月6日、国立新美術館にて現代アートのグループ展「遠距離現在 Universal / Remote」が始まった。同館で5年ぶりとなる現代美術のグループ展。これが期待をはるかに上回る素晴らしさだった。国際的に活躍している8名と1組の現代アーティストの作品に“力がある”のはもちろん、展覧会のテーマが明確で構成がわかりやすく、心にすっと入ってきた。

 キュレーターを務めた国立新美術館特定研究員の尹志慧氏は、企画の意図をこのように語る。

「現代社会の中で“遠さ”を感じることはある意味、困難なこと。リモートワークなどにより世界は瞬時につながります。でも、コロナ禍によって“遠さ”という感覚が再び呼び起こされました。人と人との間には2メートルという“飛沫が届かない遠さ”が確保され、入国制限や渡航禁止によって“国家間の遠さ”も強く感じました。それに合わせて、世界に遍在する不均衡や格差、矛盾、不条理などによる“遠さ”も浮かび上がってきたのです。

 コロナ禍から少しずつ時間が経ち始め、私たちはコロナ禍で認識した“遠さ”の感覚を失いつつあります。でも、“遠さ”の感覚は忘れてはいけません。今なお遠くにそれぞれが生きていることを認識し続けることが重要です。“万能リモコン”を意味するUniversal Remoteをスラッシュで分断することで、その万能性にくさびを打ち、ユニバーサルとリモートを露呈させる。そんな意図から、展覧会に『遠距離現在 Universal / Remote』と名付けました」