ほんとうにスピード感のあるスケーターたち
「東日本選手権、西日本選手権を見に行って、そこで出てほしいと思った選手にオファーしました。まずは人数で圧倒するパフォーマンスを見せたい、疾走感やスピードが生み出す迫力を出したいと思っています。出演する学生の子たちも、ほんとうにスピード感のあるスケーターたちです」
従来のアイスショーにないスケートの魅力を打ち出したいという意図からの試みは、別の意義も持っている。
「今シーズン限り」と決めて競技生活に打ち込んできた櫛田一樹は、昨年12月の全日本選手権フリーで4回転トウループを決めたのをはじめ渾身の演技で観る人の心を揺さぶった。
試合後、出演する「滑走屋」についてこう語っている。
「(今後について)まだ何も決めていなくて、とりあえず高橋大輔さん主催の滑走屋に出て、そこから少し決めていこうかなと思っています。そこで自分の今まで磨いてきたスケーティングだったり見せ方だったりで評価されて、アイスショーのほうもいろいろオファーされたらいいなと思っています」
江川マリアもアンサンブルスケーターとして参加する1人だ。
「アイスショーの機会をいただけて、本当にすごい貴重な経験だと思うので、すべてを吸収したいというそういう気持ちです。アイスショーは初めてなので、たくさんいい経験ができたらいいなと思っています」
全日本選手権で一昨年より2つ順位を上げて10位となったことが象徴するように着実に成長のあとを見せる江川にとって、ショーへ向けての練習も含め、貴重な時間となるだろう。
江川は福岡でスケートを始め高校時代までを過ごしたが、拠点とするリンクが閉鎖されたため上京した経緯がある。その閉鎖されたリンクが新たな名称とともに再開したのが福岡オーヴィジョンアイスアリーナだ。そういう意味でも、大切な機会となる。
彼ら2人だけではない。参加するスケーターはそれぞれに競技人生を歩んできた。ときに競技を続けるのに苦労し、それでも打ち込んできた。競技人生にここで区切りをつけるスケーター、今後を模索するスケーター、それぞれであっても、アイスショー出演がこれからの大きな糧となるだろう。
今回出演するスケーターだけにとどまらず、「滑走屋」がフォーマットとして成立して継続することができれば、中高生、大学生ら多くのスケーターにとって1つの目標となり活動していくための場となりえる。
年が明けて、「滑走屋」の練習が始まった。大きな試みの、ささやかな一歩とともに、アンサンブルスケーター―たちも晴れの舞台へと進んでいく。