西宮神社をお参り
では、お参りに行ってみよう。境内は広大で「えびすの森」と呼ばれる天然記念物の森林に囲まれている。この森は普段一般人が立ち入ることはできないが、多様な動植物の宝庫だという。門はいくつかあるが、えべっさん筋に面した表大門(赤門)から入ろう。この門が「十日戎開門神事福男選び」のスタート地点でもある。参道脇には松林。どことなく海辺の雰囲気があるが、実際、昔はこの神社の目の前が海だったということだ。
立派な拝殿の奥に三つの屋根が連なる本殿。三連春日造りという珍しい建築様式で、向かって右がえびす大神を祀る第一殿、真ん中が天照大神と大国主神を祀る第二殿、左が須佐之男大神を祀る第三殿である。
お参りを終えたら、摂社の神々にもご挨拶しよう。火伏の神様火産霊神社、お酒の神様松尾大社、お稲荷さんの宇賀魂神社など、ご利益たっぷりのお社が並ぶ中に、百太夫神社という珍しい名前の摂社がある。祭神は百太夫神。これはえびす人形をあやつる傀儡子(人形遣い)の祖神である。
えびす信仰が全国に広まったのは、室町時代以降、この人形遣いたちが各地を巡ってえびす様のご神徳を伝えたことに由来する。その際には、御神影(おみえ)と呼ばれるえびす神の姿を描いたお札も頒布していた。一般的に神道の神様は目に見えないものとされ、姿が描かれることは少ないが、人形遣いによって広まったえびす信仰の場合、神の姿は誰にでも見える。そのためお札にも釣り竿と鯛を持ったえびす様の姿が描かれているのである。
この人形遣いたちはその後淡路島に移り住んで人形浄瑠璃を生み出し、大阪の文楽へと発展した。そのような経緯で、こちらは芸能の神でもあり、「芸能上達」と書かれた扇子を奉納する習わしもある。また、疱瘡などの病から子供を守る神としても信仰されてきた。
各所でじっくりお参りし、福をたくさんいただいたあとは、神池のほとりのおかめ茶屋で一休みしていこう。甘酒もよいが、ほうじ茶付きわらび餅も捨てがたい。満足だんごと書いて「みたらしだんご」と読む団子は串に5つ刺さっており、甘辛味が何とも魅力的だ。こんなところでゆっくり甘いものを味わう時間こそが、えびす様がくださった最高の福かも知れない。