文=酒井政人 写真提供=ナイキ ジャパン

 マラソンは2017年4月のボストンでデビューを飾ると、日本記録を2度更新。「ラストラン」として臨んだ2021年8月の東京五輪では美しい姿を披露して、6位入賞を果たした。

 一度は「引退」したものの、大迫傑(Nike)は再び、勝負の世界に戻ってきた。今年10月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で3位に入り、パリ五輪代表に近い位置につけているのだ。

 いま大迫はどんなことを考えているのだろうか。

 

自身の成長を感じたMGC

2023年10月15日、MGC男子、16km付近を力走する大迫傑(中央) 写真=共同通信社

 10月のMGCは前回と同じ3位。小山直城(Honda)と赤﨑暁(九電工)に遅れてのフィニッシュとなり、今回も五輪代表内定に一歩届かなかった。

「雨のレースで非常にタフなコンディションでしたけど、そのなかでも自分の力は出し切れたんじゃないかなと思っています。川内優輝選手が序盤から行きましたが、落ちてくるのはわかっていたので、設楽悠太選手が飛び出した5年前のMGCより焦りはありませんでした。最後は数名の争いになり、勝ち切れなかった。ただ前回のMGCから自分自身が進化していることも多々あったのは収穫です。プラスして自分自身の変わらない強さみたいなものもあったのかなと思います」

 MGCで「2位以内」に入った小山と赤﨑がパリ五輪代表に内定。大迫は現時点で〝3番目の選手〟だが、MGCファイナルチャレンジ(残すは大阪と東京)で設定タイムの2時間05分50秒を突破した最速の選手が代表権を獲得できる。5年前は東京マラソンに参戦して、2時間05分29秒の日本記録(当時)を樹立。自ら五輪をつかみにいったが、今回はどうするのか。

「発表前なので、どのレースに出るかは言えないですけど、ファイナルチャレンジについて思うことがある。今後については自分のメディアで発表したい。そう遠くない未来になると思います」

 大迫は明言を避けたが、今後何かしらのアクションを起こしていくようだ。

 

ナイキの厚底シューズで結果を残してきた

 マラソンで何度もドラマを作ってきた大迫傑。彼の足元にはいつもナイキの厚底シューズが輝いていた。

「次々と新しいプロダクトが出てきて、ナイキのシューズは進化していると思います。普通、前足部にエアを入れようと思わないですよね。でもエアがあることで、より反発が出る。初めてマラソンを走った2017年のボストンで履いた厚底も衝撃的でしたけど、ナイキは常に想像の上をいくプロダクトを出している印象です」

 今年3月の東京と10月のMGCでは来年1月4日から順次発売予定の『アルファフライ 3』のプロトタイプを着用していた。

「アルファフライ 3」¥39,650(税込)

 同モデルを初めて履いたのは今年1月のケニア・イテン合宿だったという。発表前のモデルのため、自身のSNSでも大きく映らないように注意していたが、「履いているシューズは何ですか?」というDMが来るほど、熱心なウォッチャーから注目を浴びていたようだ。

 レース用シューズは「シンプルに速く走れるかどうか」を求めている大迫。3月の東京マラソンを2時間06分13秒で走破するなど、『アルファフライ 3』は彼の〝復活ラン〟を強力にサポートした。

「足入れ感も凄くいいんですけど、走ってみると化け物のようなシューズです。反発がしっかりありつつも、引き続きクッショニングもしっかりしている。前作では少し足りていなかったバランスの良さが追加されたので、非常に履きやすくなったと思います。しかもレースでは脚が最後まで残っていたという感覚がありました。自己記録を更新しようと思っているすべてのランナーにお勧めしたいですね」

 

「世界で戦いたい」という意欲は衰えていない

 来年は夏にパリ五輪が開催される。多くのアスリートが目指す夢の舞台だ。大迫はリオ五輪でトラック種目(5000mと10000m)に出場して、東京五輪はマラソンで6位入賞。代表に選ばれれば、3度目のオリンピックとなる。

 そのなかでパリ五輪はどのような存在なのか。

「東京五輪は少し特別ではあったんですけど、パリ五輪はフラットというか他の大会と一緒ですね。世の中の皆さんと、熱量の差があるのかもしれません。だからといって世界で勝負したいという気持ちは変わっていません。それがオリンピックである必要があるのか。マラソンはシックスメジャーズ(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティ)があるので、年間で6回は世界と勝負できるチャンスがある。パリ五輪に出られるなら出ますし、あらゆるところでベストを尽くして、世界(のトップ)に近づいていくだけだと思っています」

 一度は現役を退いたからこそ、見えてきた景色もある。復帰して競技に取り組む気持ちが少し変わったようだ。誰かのためではなく、大迫は自分自身のために走りたいという気持ちが強くなっている。

「より自分のために、自分の挑戦のために走るようになりました。これまでは日本陸上界の流れに、無理に合わせていた部分もありましたが、いまは純粋に陸上競技を極めたい、この大会を走りたいという思いにフォーカスできるようになったんです。毎回プレッシャーはかかるんですけど、自分に軸があるので、楽しめている感覚もあるのかなと思います」

 GMOインターネットグループ陸上部のプレーイング・ディレクターという立場でもある大迫。元日のニューイヤー駅伝には選手として出場予定で、その後はどこかのマラソンを走ることになるだろう。

 2023年は「やりたいことがどんどん出てきて、忙しかったですけど、楽しい1年でした。新しい刺激に囲まれてきた感じです」と表現したが、世界へのチャレンジは続いていく。自分に素直になった大迫傑はまだまだ私たちを驚かせてくれそうだ。