料理も器も古きよき韓国の伝統を感じさせてくれる
今、日本で知られている韓国料理はジャンクな味だったり、濃い味付けだったり、どうしてもインパクトの強いものが多い。でもここにはそういう料理が全くない。テーブルに並んだ皿を見てびっくりした! 完全に脳内の韓国料理のイメージががらりと覆えったのだ。
『おまかせ小皿5種盛り』は、とにかく黒、茶色、白で潔い良いほど素朴。例えば、海苔の和え物だったり、醤油に漬け込んだれんこんやごぼうだったり、そのものずばり。でもその姿は間違いなく、余分なものを一切排除したきれいな味を想像させてくれる。
肉料理だって極シンプル。『ゆで鶏のヤンニョンのせ』や『蒸し豚と塩漬け白菜』など、料理名を眺めるだけでおいしさが想像できる。さらに食事をしたい人にはスープと一緒に食べる定食も用意されている。献立を眺めていると、あれも食べたい、これはどんな味?と好奇心が立ち上がってくるのだ。
全さんはずっと料理を学んできたというが、その先生は韓国の宮廷料理を極めた人物。教えてくれたのは、滋味深く優しい、昔から食べられてきた料理ばかりだという。この店のメニューもその流れをそのまま汲んでいる。自然なものを選んでテーマにしたのではなく、身についている料理や生活をただそのまま表現しているだけ。だからナチュラルワインを扱うのもその流れであり、マッコリも無添加で自然に作られたものを置いている。
「自然に生活になじんだ韓国料理が好きですね。韓国の田舎では普通にこういうものを食べています。そういうことを知って欲しい。でもこの店の料理を見て、韓国料理だとわからなくても別にいいんですよ。ここのご飯がおいしかったな、と思ってまた使ってくれればいい。そうやって自然に、日本にその文化が溶け込んでいければいいんです」。
また、料理のための器もこの店のために用意されたものだ。
「韓国に古くからある土鍋にトゥッペギというのがあるんですが、それを作家さんに再現してもらっています。韓国料理に欠かせないスッカラ(スプーン)も古いものを揃えました」。
時代を経た古民家で、シンプル極まりない実直な料理と器に出会う。京都には韓国料理が数多あるが、ここではその懐の深さを知ることになる。だけれども、店は親しみやすく、カジュアルで使い勝手がいい。
「健康的な料理を食べてみんなが元気になって、さらにお酒も飲めるならそれでいいでしょう」と全さんはいたって自然体だ。
初めて出会う韓国の素朴な田舎料理と京都の街の匂いが染みた古民家という取り合わせが異色のここ。モザイクタイルのカウンターで昼からマッコリと小皿をつつけば、旅の中でまた旅をするような不思議な気分が味わえる。