どれが真筆?最新の技術調査で解明
ボスの真筆は20~30点とされ、研究者によっても意見がさまざまに分かれます。
真筆かどうかの見極めが難しい理由には、まず、ボスひとりで制作していたと思われていたのが、近年の研究で熟練の弟子が何人かいて、工房を構えていたことがわかったことが上げられます。本人が関わっているか、工房もしくは弟子の作品かの判断がつきにくいのでした。また、当時からボスはとても人気があり、ボス風の作品を描く追随者(フォロワー)も登場しました。そのため工房、弟子、追随者の作品は250以上も存在すると言われています。
真筆かどうかの判断は、様式や技法の判定に加え、近年では作品に使われている板の年輪年代学調査という最新技術による解明も試みられています。これらによって代表作を含む7作品も、真筆から外されました。
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たとえば《荊冠のキリスト》(1510年頃)は追随者、《東方三博士の礼拝》(1494年頃)は弟子または工房、《十字架を担うキリスト》(1515-20年頃)がアントワープの追随者、《手品師》(1510-20年頃)は工房または追随者、だと推定されています。
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キリストの周囲にいる悪意に満ちたグロテスクなまでに誇張された悪意に満ちた人の典型が描かれている《十字架を担うキリスト》は、中央のキリストと左を向いている女性だけが「よきもの」というキリスト教的な描写で、あとはおぞましい人たちというカリカチュア(特徴を誇大に表現して、滑稽さをもたせた絵)のような表現です。非常にボス的なこの作品も、追随者と判定されました。
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また、《手品師》もペテン師と騙される者たちがたくさん描かれ、よい人は誰一人もいないという、人間の愚かさを表現した絵で、ボスの代表作とされていましたが、工房の作品と判定されています。
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ただ、これらが正しい判定かどうかもまだ不確かです。異彩を放ったボスの画風は広く愛されたことから注文も多く、工房でも制作され、模倣者も多かったことで混乱し、ボスの日記や手紙も残っておらず、絵にも年記も入れませんでした。このように多くの謎を残したことは、いかにもボスらしいといえるのではないでしょうか。
参考文献:
『謎解き ヒエロニムス・ボス』小池寿子/著(新潮社)
『図説 ヒエロニムス・ボス 世紀末の奇想の画家』岡部紘三/著(河出書房新社)
『名画の秘密 ボス《快楽の園》』ステファノ・ズッフィ/著 千足伸行/監修 佐藤直樹 /訳(西村書店)
『異世界への憧憬 ヒエロニムス・ボスの三連画を読み解く』 (北方近世美術叢書別巻) 木川弘美/著(ありな書房)
『ヒエロニムス・ボスの世界 大まじめな風景のおかしな楽園へようこそ』ティル=ホルガー・ボルヒェルト/著 熊澤弘/訳(パイインターナショナル)
『ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む』神原正明/著(河出書房新社)