JBpress autographでは2025年を迎え、積極的に時計関連の記事を制作していこうと考えている。1月中にはエグゼクティブに向け、よりわかりやすいものを掲載する予定だ。そこでその前に、24年4月に行われた時計界最大の発表会『Watches And Wonders Geneva』の後に編集部内で話した未発表の座談会をここに掲載し、新作をいま一度振り返ってみたいと思う。残念ながら編集部から参加できなかったので、現地で取材をしたライターのライター数藤 健氏にトピックをうかがいつつ、2024年前半のウォッチシーンを概観する。その第2弾。

数藤 各ブランドが独自のテーマでもって新作プレゼンテーションをするのは、Watches And Wonders Geneva以前のバーゼルフェアなどでも同様。なかでも2024年は今回、IWCが完成度の高い展示をしていました。一部パイロットものもありましたが、今季はずばりポルトギーゼ・イヤーでした。

鈴木 展示にもテーマ性が盛り込まれていたのですね?

数藤 そうです。地球を模した大掛かりなモニュメントなどを設置しており、ポルトギーゼならではの壮大な世界観を打ち出していました。

福留 昨年のインヂュニアのときも凝ったブース作りをしてたので、今回はどうなのかと気にしていました。

数藤 そんな舞台のなかで展示されたのが、新しいカラーを纏ったポルトギーゼ・クロノグラフ。「ホライゾンブルー」「デューン」「オブシディアン」といった3色展開でどれも非常に好評を博していました。

福留 確か「昼と夜の永遠のサイクルから発想したカラー」なんですよね。それぞれ淡いブルーとベージュ、艶のあるブラック。

鈴木 もともとポルトギーゼのクロノグラフはスポーティというよりドレッシーな印象でした。その雰囲気がさらに高まったように見えますね。

数藤 そうですね。イタリアはサントーニ社のレザーストラップを使用しており、仕上りも非常にエレガント。特にブルーのそれはフェミニンな印象すら感じさせます。

福留 たしかブルーは、発表してすぐ“入手困難”との噂を耳にしました。

鈴木 福留さんは以前、ポルトギーゼのことを「商人の時計」と言っていましたが、確かにこのクロノグラフなら、ビジネススタイルにもきれいにマッチしそうです。

数藤 その他、ポルトギーゼで言えばパーペチュアル・カレンダーの新作エターナル・カレンダーも発表されました。なんと577年先まで、4年ごとの閏年を踏まえた日付表示プログラムが組み込まれているんです。

鈴木 もはやアナログコンピューター!

福留 しかもリューズ操作ひとつでメカニズムを完結させているんですよね。そこも実に凄い。

鈴木 コレのオーナーになったら500年以上、ゼンマイを巻き続けるギムが生じる……。

数藤 まあ、途中何度かオーバーホールも必要なので、そこまで気を張らなくても(笑)

福留 というか、フツーに死んじゃいますよね(笑)。そして恐らく価格はアンダー700万円。値段は思ったほどベラボウじゃない。もちろん買えませんけど(笑)

数藤 そして次に、現実路線を長年突き進む実力派を、ここでご紹介しましょう。

鈴木 おー、オリスですね。去年はプロパイロットのカーミットエディションが非常にユニークでした。

福留 カレンダーの「1」がディズニーキャラになっているヤツですね。あれは楽しかった。

数藤 あれほどユニークではありませんが、オリスは今季ダイバーズでカラフルなモデルをリリースし注目を集めました。

福留 あのスイカみたいなヤツ?

鈴木 思い出しました、文字盤がレッドとグリーンのモデル。どちらもベゼルがホワイトというのが非常に斬新だと思います。パッと見はトイウォッチ風だけど、しっかり300m防水という本格派なのもグッド。

 

数藤 まあアクイスは一連のシリーズのなかで、4000m防水モデルを出すほどの本気コレクションですから。

福留 でありながら、この新型アクイスデイトはブレスレットモデルにして40万円チョイ。

鈴木 おお、カーミットよりも現実的(笑)。今ドキ凄いコトですよね。

数藤 そしてまた高低差が出てしまうのですが、大御所のパテック フィリップも見てきましたよ。

福留 やはりソコは押さえておかないと(笑)

数藤 目玉は何と言ってもRef.5330Gじゃないでしょうか。パテック渾身のワールドタイムモデルでありながら、デニム調カーフストラップを添えたバージョンで、とにかく目を引きます。

鈴木 なんとも若々しい雰囲気ですよね。これまでのオールドマネー好みとでも言うべきルックスが一新されています。

福留 完全に新たな若年リッチ層にぶつけていますね。でありながら、中身に関しては相変わらずパテックらしさを追求している。

数藤 そうですね、このRef.5330はセンター針表示の現地時刻と同期した日付表示を備える世界初のワールドタイム。しかもポインターデイトの針は、サファイヤ製というから洒落ています。

鈴木 たしか、この機構に関して特許を取得してるんでしたっけ?

福留 このモデルの他にも今回は、種類豊富にコンプリケーションを発表していますよね。

数藤 はい。インライン表示式の永久カレンダーであるRef.5236Pとか、アラーム付きのトラベルタイムであるRef.5520RGなどなど。ちなみにRef.5520RGは、防水機能を備えたパテック フィリップ唯一のチャイム・ウォッチです。

鈴木 なんとも圧倒的な品揃え(笑)

福留 その他、アクアノートの新作とかも出していました。パテックファンはもう悶絶ですよ(笑)

数藤 根強いファンが付いているブランドという意味では、カルティエも見逃せません。

福留 今季はサントス祭りだと聞いています。

数藤 そうですね。文字盤とベルトの色を合わせたカラフルなモデルから、ちょっとリッチなコンビモデル、そしてサントスの持つデザインコードを生かしたデュアルタイムモデルなど、ヒット確実なラインナップとなっていました。

鈴木 なんか、逆巻きに進むサントスがあるとかないとか聞きました……。

数藤 さすが変わりモノ好き編集長(笑)。逆巻きの機械cal.230MCを搭載したモデルは、針が通常のように前身するのではなく後進するタイプ。インデックスも鏡映しのようにひっくり返った配置のデザインが特徴です。

福留 時を逆に進ませる……。以前あったエルメスの、ありえない針位置で止まって待機するモデルのような哲学性を感じますね。

鈴木 洒落た遊び心ということなのでしょう。非常に気になるモデルです。

数藤 なかでも時計ツウから大いに支持を得たモデルと言えば、カルティエ プリヴェのトーチュ。

福留 特にワンプッシュクロノグラフは、1998年代にCPCPからリリースされており、世界的なコレクターズアイテムとなっていますから。なんでも搭載されていたcal.45は、錚々たる時計師が設計に携わっていたと言いますよね……。

鈴木 やっぱり歴史のあるブランドは、まつわる伝説も味濃いめですねぇ。

数藤 そういった伝説もブランドの魅力を強化する要素です。そしてカルティエはジュエラーとしてのセンスが、若い人を含め幅広い人気を持つポイントになっていると個人的に感じます。

福留 なるほど、伝統に縛られがちなスイスブランドとは違う感覚があると。

鈴木 そうですね。スイス勢は毎年多くの新作をリリースしますが、突き抜けきれないブランドも多い気がします。そういうなかで、フランス勢はお国柄のせいかちょっと手触りが異なる。エルメスのカットもいいですね。

数藤 個人的にはウブロのセラミックモデルなど、若い世代を意識したエッジのある打ち出しは非常に新しかったと思います。あとパテックのRef.5330Gや、予約段階で即完売したランゲ&ゾーネ・ダトグラフの25周年限定モデルのプレゼンテーションも象徴的だったと思いますが。

鈴木 新たな顧客層にも訴求したい大御所としての頑張りを十分に感じました。ただ、時計ブランドではないのですが、たとえばランボルギーニやフェラーリだったら、もう少し角度のある打ち出しを提案するようにも……。ま、かなり独断と偏見です(笑)

福留 大胆な若返りは業界に新風をもたらすことは確か。しかし、こと時計業界に限ってはティエリー・ナタフさん時代のゼニスの例もありますから……。

数藤 いまや知る人ぞ知る歴史の一幕ですが、あれはたしかに衝撃的でしたね(笑)。

鈴木 アーカイブを真面目な角度でアレンジするだけでなく、斬新なアイディアや遊び心をもっと盛り込んでも良いと僕なんかは感じます。そういったチャレンジに軸足をおくブランドもすでにいくつか散見されました。先ほどのオリスのみならず、フランク・ミュラーやランゲ&ゾーネにも夜光素材をケースや文字盤に組み込んだモデルもあったと聞いています。

福留 そういった各社によるいろいろな取り組みやチャレンジがあったからこそ、今回のWatches And Wondersが大いに盛り上がったと言えるのでしょう。

鈴木 まだまだ本格時計シーンは発展の余地があるということで、これからも精力的にチェックしていきたいですね。

鈴木・福留 数藤さん、今回は詳細なレポート、本当に有り難うございました。

 10月にパテック フィリップからキュビタスというスクエア・ケースの新しいコレクションが発表されたが、これは例外で、2024年の新作の大半はこの『Watches And Wonders Geneva 2024』で発表されたものがベースとなっている。2025年も春には『Watches And Wonders Geneva 2025』が開催され、新しい時計が発表されることになるが、対談中にしばしば出てきたように、前年と比較してみるのも楽しい時計の見方だと思う。

※価格は24年4月当時のもの