名品は時間を掛け積み重ねられた伝統の力が生み出すもの。そして物作りの情熱は、やがて過去の名品さえも進化させていく。ロングセラーとヘリテージをつむぎながら誕生したニューデザイン。その二つを知ることで、ブランドの持つ本質と革新性が見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川 剛(TRS) 編集/名知正登

卓越したマーケティングとデザインセンスで世界を魅了

 デザイナーのトム・フォードは、自身のブランドを興す以前から有名であった。あのグッチに再び灯をともしたというエピソードは、今もって業界の語り草である。一族経営による混乱が続いた1990年代のグッチに、クリエイティブディレクターとして参画したトム・フォード。何とたった10年で13倍にまで売り上げを伸ばしたという伝説を残している。その手法は徹底してマーケティングに基づきデザインをアップデートさせるというもの。

 そして2005年には待望の自身の名を冠した会社を設立。逞しい男らしさとラグジュアリーな仕立てを貫いたスーツは特に評判となり、マーケティングの巧みさも伴って、デビュー当時から世界的なヒットを飛ばしたのだ。

 その後、天才デザイナーはウエア類のみならずメガネや香水など、小物のシーンにも参入。どちらも専門ブランド並みのストーリーとクオリティを付加させ、ウエアを超える支持を得ているのだ。とりわけレザーグッズは豊かな趣味性、優れた品質のみならず、リリースの種類や数も限定的であることから、熱心に買い集めるコレクターまで現われるほどの加熱ぶりという。ここでは、「T」のアイコンが輝く上質なレザーベルトを取り上げる。