文=のかたあきこ 写真=木下清隆

宮大工の技が光る豪壮な造りで、家と地域の繁栄を感じさせる

登録有形文化財の豪農屋敷に宿泊する

 秋田空港から車で15分ほど。県南部を流れる雄物川(おものがわ)の中流域に「強首温泉 樅峰苑(こわくびおんせん しょうほうえん)」はある。江戸時代には船運が発達し、強首地域は穀倉地帯の川港として発展。初代が強首村をはじめ地域一帯の田園開発に励み大地主となり、茅葺きの大屋敷を構えたそうだ。

3つの様式で造られた表玄関の屋根の朱色と、敷地を彩る木々の緑色との対比も美しい

 屋敷の大きさは圧巻。高さは15m、建築面積は約200坪もある。表玄関の屋根は、最上部が社寺建築を思わせる千鳥破風(ちどりはふ)、中上部が入母屋(いりもや)造り、下部が唐破風(からはふ)という凝った手法である。昔から家の目印という樹高30mの樅は樹齢約400年を数える。現当主で16代目の小山田明さんは「初代が建てた屋敷は、藩政時代には本陣(藩主の宿泊所)として利用されました。秋田藩主・佐竹公がお使いの貴重な什器が家に残ります」と説明する。

現在の屋敷は大正6年(1917)の建築

 小山田さんは話を続ける。「本陣としても活躍した大屋敷は、大正3年(1914)の強首大地震で全壊。当時の12代目は将来このようなことが起きないよう、宮大工を京都に派遣し耐震技術を学ばせ、3年をかけて現在の屋敷を完成させました。そのおかげで2011年の東日本大震災でもビクともしませんでした」。

磨き抜かれ飴色に光る一枚通しの天然秋田杉を使った廊下

 温泉旅館としての営業は1966年から。屋敷の住宅形式を残したまま、客室は二間続きの和室や、ひとり旅におすすめの6畳間など全7室ある。館内には欅の自在鍵がかかる囲炉裏の間、欄間彫刻が見事な書院など見所が豊富だ。16.3mを一枚の天然秋田杉で通した廊下や、3部屋一貫の長押(なげし)をはじめ、使われている建材はどれも最上級だ。

階段室。鹿鳴館風の意匠で擬洋風の技法が見所

 階段室は親柱や手すりなど擬洋風の技法が凝らされている。折り上げ天井と透かし彫りの欄間、舟底天井との対比などが空間に格式と開放感をもたらしている。磨き抜かれ飴色に輝く廊下など、木造建築の旅館では人と時間の往来が感じられる。屋敷は1999年に登録有形文化財となった。

 

檜造りの貸し切り露天風呂で強塩泉のにごり湯を満喫

貸し切り露天風呂。樅の木を眺めながらのんびりと

 温泉浴場は男女別の「ひのき風呂大浴場」に加え、貸し切りで利用できる露天風呂を2つ(大樹の湯・こもれびの湯)用意する。湯船には塩分をたっぷり含んだ源泉が掛け流しにされ、いかにも効きそうな茶褐色の温泉が満ちている。泉質は希少価値の高いヨウ素をはじめとする、含よう素ーナトリウムー塩化物強塩温泉。敷地内地下800mから湧出する。ヨウ素は、うがい薬にも使われる殺菌効果の高い成分である。

貸し切り露天風呂。湯船は全て総檜造りで肌心地が優しい

「強塩泉」の名の通り温泉成分が濃く、溶存物質量は温泉既定値の20倍以上を誇る。塩分や炭酸水素イオンを多く含むため、体を芯から温め、疲労回復に効果がある。ヨウ素や塩分による殺菌作用、保温効果による抹消循環障害、冷え性をはじめ、適応症は様々だ。肌によくなじみ、美肌作用なども評判だ。

食事処として利用される40畳の大広間

 食事処となる大広間は40畳もあり、中央の柱を抜き取ることができる仕掛けだという。透かし彫りの欄間など美しい空間だ。夕食は鯉の旨煮、川魚の塩焼き、鍋をはじめ山の幸が中心だ。米は限定生産のあきたこまち。地酒も豊富に揃い、食事とあわせて飲み比べも楽しい。

郷土料理である川蟹料理のプランもある

 雄物川で獲れる川蟹(モクズガニ)の料理プランも名物だ。川蟹は濃厚な味わいと独特な風味が特徴だ。蟹餡、川蟹の唐揚げ、蟹みそ甲羅焼き、川蟹のつみれ汁をはじめ、様々な調理法による川蟹づくしを堪能できる。

「小山田家資料館」は元禄時代に建てられた米蔵を活用

 敷地内にある「小山田家資料館」には、江戸時代から藩の要職を務め、豪農であった小山田家の貴重な古文書や贅沢な什器や装飾品などが展示され、見応えがある。