モンブラン 1858 アイスシー オートマティック グレーダイヤル
モンブラン山脈最大の氷河の1つ「メー ル・ド・グラース」の氷に着想を得たグレイシャーパターンの文字盤が特徴の2023年新作ダイバー。ケースバックには氷山の3Dエングレービングと、眼下の氷河湖を探索する黒いスキューバダイバーが描かれている
454,300円(税込)

1906年を起源とする「モンブラン」は、エンジニアのアウグスト・エーベルシュタイン、銀行家のアルフレッド・ネヘミアス、文具商のクラウス・ヨハネス・フォスの3人を始祖としてドイツ、ハンブルクに創業したペンの会社。黒いレジンのボディに、金のトリム、キャップの先頭のモンブランの山をイメージした6つのポイントをもった白い星型のロゴ、というスタイルは1924年に発売された『マイスターシュテュック』を起源としており、いまや、万年筆のデファクトスタンダードといえる存在だ。

そして、モンブランのペンが起こした波は、筆記具にのみ留まるものではなく、レザーのバッグやフレグランス、そして時計にも届いている。WATCHES AND WONDERS 2023にも大きなブースで時計ブランドとして参加していたモンブランの現在をモンブランインターナショナルCEOニコラ・バレツキーさんに聞いた。

ニコラ・バレツキー(Nikolas Baretzki)
モンブランインターナショナル最高経営責任者。パリのHEC経営大学院で会計監査と経理の修士号をとり、1994年から時計業界に関わっている。モンブランでは2013年に販売部門の執行副社長に就任し、2017年から現職

オートグラフの大先輩

「オートグラフっていい媒体名ですね!」

筆者が自己紹介すると、ニコラ・バレツキーさんは、まず、我らが媒体名に食いついた。

オートグラフという単語を紐解くならば、自(auto)筆(graph)。筆者は、この媒体名に、モノやサーヴィスを生み出した人の筆跡・痕跡を探る場であること、それを語る執筆者・フォトグラファーの筆致が残される場であること、という解釈を託している。

「私たちは、手書きはとても大事だとおもっています。それはあなたを誰かと区別するものですから。ハンブルクにある「モンブランハウス」には、著名人のオートグラフを飾った壁があるんです。もっとも古いのは、1777年のヴォルテールのサインですよ」

今回のWATCHES ANDは WONDERSのブースの壁面もオートグラフの壁だった。アルプス山脈をイメージしたデッサンが描かれており、その多くの部分が、よく見ると、人類史上初の8,000メートル峰全14座完全登頂(無酸素)を成し遂げたイタリアの登山家、ラインホルト・メスナーの『Everything begins with a daydream』というメッセージで構成されている

とはいえ、いまや手書きもクラシカルで、趣味的なものですよね? デジタルの世界ですし、その傾向はパンデミックでさらに強まったのでは?

「私は、デジタルとアナログは競合しないと感じていますよ。そのことをパンデミックで世界はより強く実感したのではないでしょうか?」

連日、多くの来場者でごった返していたモンブランブースの中央には、巨大なペン先のオブジェがあり、ゆっくりとデッサンを描いていた。「4810」は『マイスターシュテュック』に刻まれる伝統の数字で、モンブラン山の標高にちなんでいる。曰く「世界最高峰の技術力とクラフトマンシップの象徴」

モンブランは好調だということですか?

「モンブランに限らず、だとおもいます。私も朝起きるときにはスマホのアラームが鳴りますし、そのスマホでニュースやメールを確認します。私たちは、デジタルテクノロジーに囲まれているからこそ、オーセンティックなものを求めるからではないでしょうか? たとえば私たちの100年に及ぶストーリー、クラフツマンシップ……」

古き良きもの、ということですか?

「とんでもない! モンブランのDNAはイノベーションです。インクの漏れない機能的な万年筆を開発して以来、革新性は私たちの明確な哲学です。同じ文字でも書き手によって表現が異なるように、同じ万年筆といっても、それぞれの万年筆には違いがある。それは時計でも同じことです。『モンブラン アンヴェイルド タイムキーパー ミネルバ』はご覧になりましたよね?」

モンブラン アンヴェイルド タイムキーパー ミネルバ リミテッド エディション100
プッシャーのないクロノグラフウォッチ。ベゼルがプッシャーの代わりをする。100本限定で5,858,600円(税込)。ほかに28本限定でライムゴールドケースのモデルも発表された

なるほど、クロノグラフはクロノグラフでも、表現が違いますね。

「ミネルバだけでなく『モンブラン1858 アイスシー』のシリーズもそうです。ダイバーズウォッチですが、我々は氷河からインスピレーションを受けている。そういうダイバーズウォッチは珍しいとおもいますよ?」

モンブラン 1858 アイスシー オートマティック デイト
ページ冒頭の『モンブラン 1858 アイスシー 』シリーズには、グリーン グレーシャー ダイヤルを備えた、ブティック限定のエディションも発表された。氷河は時に、氷に取り込まれた酸化鉄によって深いエメラルド グリーンになることに着想を得ている。ブレスレットは写真のブラックのラバーストラップのほか、微調整システム付ステンテススティール製ダブルフォールディングストラップが付き、インターチェンジャブル
498,300円(税込)

モンブランは何ブランド?

ところで、モンブランといえば、僕にはやはり、筆記具のイメージが強いのですが、現在のお客様にとってのモンブランはどういうブランドなのですか? 時計参入は1997年ですよね? お客様にはもはや、時計ブランドという認識もあるのでしょうか?

「まずはモンブランの時計作りですが、スイスのジュラ山脈にあるル・ロックルの工房のほかに、1858年からの歴史を誇る、ヴィルレを拠点とする「ミネルバ」の工房があり、2つのマニュファクチュールが一体となった時計作りを続けています。当然、時計からモンブランブランドに触れる方もいらっしゃいます。そしてもちろん、筆記具からモンブランを知る方もいますし、レザー製品もまた、人気商品ですよ。ですから、我々は、モンブランを総合的なラグジュアリーブランドであると考えています」

ではモンブランの特定のカテゴリーを好きな人もいれば、モンブラン全体が好きな方もいる、という認識ですか?

「それは本当にさまざまです。顧客データによれば、例えば年齢は、上は80歳以上、下はなんと7歳ですから。性別、国籍も様々ですし、モンブランの製品のうちの何をどう、使われるかもさまざま。何か特定の傾向がある、とはいえません。総合的なブランドと申し上げたのはそういうことです」

なぜそうなったのでしょう?

「まず、モンブランというブランドが、世界に広く展開していること。モンブランはすでに、多くの方にとって、馴染みあるブランドなのです。世界のおよそ140の国に製品を出荷していますし、たとえば中国でいえば、昨年、全体の80%、およそ340の都市に製品を出荷しています。Eコマースのおかげもありますよ。さらに、2021年には、マルコ・トマセッタがアーティスティック・ディレクターとして就任したことで、ブランド全体のレベルがさらに一次元上へと、高められています。デザイン性の高さ、美しさ、洗練されていること、もちろん、100年を超える歴史、テクノロジー、コレクション性……モンブランを買う理由はたくさんあるのです!」

僕は父からモンブランの万年筆をもらったことがきっかけで知りました。その万年筆はいまだに使っていますが、考えてみれば30年以上前ですね……

「私も子どもにモンブランの万年筆を贈りましたよ。それもまたモンブランの強みとして大切にするべきことなのです。贈り物として受け取ったモンブラン製品に誇りを持てる。モンブランはそういうブランドです」

モンブランはパフォーマンスである

では、これから先、未来のモンブランについてはどのように考えていらっしゃいますか?

「それは世界がどういう方向に動くかによりますね。現在の世界はいささかきな臭いといえるかもしれませんが、私は、ポジティブな人間なんです。もちろん、リスクがないとはいいませんし、それに対する備えをしていないということもありませんが」

これから、モンブランで仕掛けたいことはありますか? 例えば、新しいカテゴリに挑戦するとか?

「それは私にとっては厳しい質問です。というのは、いまモンブランはリシュモングループに属しています。グループのなかで果たすべき役割もありますから、私が秘密を打ち明けてしまうわけにはいかないんですよ」

ということはいろいろとあるわけですね?

「そうですね……私は、何事もパファーマンスだとおもっています。パフォーマンスというのは、もしも情勢が下むいたら、モンブランの業績も下向くでしょうが、そのときはゆっくりと下降すること。全体の情勢が上向いているときには、ほかよりより高くまで登ること、という意味です」

そうしてモンブランの旅を続けていくと……

「ええ。モンブランは旅のブランドでもあるんです。カバンを作っている、ということもありますが、モンブランは冒険者であり、モンブランの製品は、冒険者が選ぶに値する機能的なものであることも、忘れないでくださいね」

そういえばモンブランのバックパックが機能的で、欲しいとおもっていたことをいま、思い出しました!