著名ブランドがイメージを変えるのは難しい。筆記具の分野で第一人者であったモンブランは、時計ブランドとしても認知されるばかりか、そのトップブランドのひとつとなった稀有な例だろう。今年は、その飛躍の要因となったミネルバをフィーチャーした1858シリーズから、実用的な複雑時計を紹介する。
ミネルバ社との共同開発
十数年前、来日した当時のモンブラン本社CEOは、インタビューで「時計事業の伸びは大きく、今後、もっとも拡大する可能性がある」と語っていた。その言葉通り、モンブランの時計はますます充実し、いまや筆記具、革製品、フレグランスなど多様化する商品のなかでも、中心的な存在へと成長している。
その飛躍の要因のひとつが、2006年にミネルバ社が傘下に加わり、共同で時計開発を行ったことだろう。
ミネルバは1858年にスイスで創業した老舗で、世界最高のクロノグラフメーカーと呼ばれていた。規模はそれほど大きくなく「知る人ぞ知る」といった存在であったが、20世紀初頭からムーブメントを自社製造するほどの技術力を誇っていた。
2000年代からよく耳にするようになった“マニファクチュール”と呼ばれる自社製ムーブメント製作体制を、100年以上も前に確立していた稀有なメーカーだったのだ。とくにクロノグラフ機構における開発力は素晴らしく、時計愛好家の間でも高い評価を得ており、熱烈なファンも多い。
このような名門と呼ばれるメーカーが著名なブランドに入ると、埋没してしまうことが多々あるが、モンブランはミネルバをフィーチャーした製造体制を敷くことで、事業を加速させている。自社ムーブメントの開発やクロノグラフの充実はもちろん、GMT、ムーンフェイズ、クロノグラフといったコンプリケーションの開発など、その進化は著しい。
そして、2017年にはそのコラボレーションを前面に打ち出した「1858 コレクション」を発表する。これはミネルバの意匠やコンセプトをリバイバルしたヘリテイジ コレクションをラインナップしたもので、モンブランがいかにミネルバを大切しているかがうかがえる企画である。
最高峰の登頂に使用された耐久性
2022年も、その1858 コレクションから新作がラインナップされた。
『モンブラン ジオスフェール クロノグラフ ゼロ オキシジェン』がそのひとつ。このモデルは、ネパール生まれの登山家、ニルマル・プルジャがわずか8日と23時間10分でエベレスト、ローツェ、カンチェンジュンガに登頂した際につけられていた腕時計だ。
ダイヤルには、12時位置に北半球、6時位置に南半球を模したドームを搭載。その周囲にデイ&ナイト表示付きの24時間計が置かれ、その2つのドームは1日24時間で1回転する。ただ、そこには世界各地の都市名はない。自転する地球を見ることで、リアルタイムの時刻を把握する、というスタイルである。他2つのサブダイヤルはクロノグラフ機構で、30分と12時間の積算計となっている。
また、-50℃という過酷な低気温下でも粘度を維持する、特別な潤滑油も使用しているという。
ケースはチタンをポリッシュで仕上げており、ダイヤルはグレイシャーブルー。このダイヤルは、伝統的な彫刻技法である「グラッテボワゼ」によって、積層した氷河を想わせる複雑な模様が描かれている。外周には方位が刻まれた双方向回転ベゼルをセット。艶消しサテン仕上げのブラックセラミックが、時計全体のシルエットを引き締めている。
チタン製のケースバックには、プレートにレーザーを使用して複雑な山肌がリアルな世界最高峰、エベレストが描かれている。世界290本限定なのだが、これはエベレストの高度29,031フィートにちなんでいる。
問い合わせ:モンブラン コンタクトセンター TEL:0800-333-0102