文=細谷美香

『007』シリーズのダニエル・クレイグ主演

 昨年のアカデミー賞ではAppleTV +の『コーダ あいのうた』が配信サービスの作品としては初めて作品賞に輝き、Netflix作品の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が監督賞を受賞するなど、ここ数年で存在感を増してきたストリーミング作品がひとつの頂点を迎えた。

 今年はNetflixの『西部戦線異状なし』が作品賞に入っているものの、賞レースにおけるNetflixの勢いはやや落ち着いてきたように見える。そのなかで脚色賞にノミネートされているのが、Netflixで配信中の『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』。

 学園ミステリー『BRICK ブリック』で注目を集め、『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の監督も務めたライアン・ジョンソン監督が監督・脚本を手がけた『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』の第2弾にあたる作品だ。監督が敬愛するアガサ・クリスティにオマージュを捧げた密室殺人ミステリーであり、『007』シリーズのダニエル・クレイグが南部訛りの名探偵という新たな当たり役をものにしている。

 

お遊びの殺人ゲームが、実際の殺人事件へ

 謎解きや会話の面白さとアクの強いキャラクターたち、豪華なキャストが集結するスター映画の楽しさはそのままに、舞台は前作のニューヨーク郊外の大豪邸から陽光きらめくギリシャの島へ。

 世界がパンデミックに襲われているなか、IT企業を営む大富豪のマイルズ・ブロンが地中海に浮かぶリゾートに友人たちを招き、お遊びの殺人ゲームを提案する。しかし実際に殺人事件が起こり、ゲームの参加者たちが容疑者になってしまう。

 ブノワがこの事件をいかにして解決に導き、どう関係しているのか。練りに練られた緻密かつ巧妙なストーリー展開と鮮やかな伏線回収で観る者を満足させ、ミステリーを愛する監督の手腕が細部まで光りまくっている。クラシカルなミステリーのスタイルで現代的なテーマを語るスタイルも、この作品の魅力のひとつ。

 エドワード・ノートン演じる強引で独善的な大富豪はイーロン・マスクを思わせ、全編にちりばめられているのはリッチな人間たちへのシニカルな視線だ。以前は主婦だった州知事、元ファッションアイコン、科学者にインフルエンサーと、ブロンと因縁の仲である全員があやしく見えてくるキャラクター設定も、絶妙なバランスで成立している。

 プライベートな孤島に立つ邸宅が舞台となっているだけに、ゴージャスな美術も大きな見どころ。玉ねぎのようなガラスの豪邸はまるでそれ自体が芸術品のようで、しかもブロンの富の象徴たるアートがいくつも飾られている。

 そしてケイト・ハドソン、ジャネール・モネイら女優陣が着こなす華やかでドラマチックなリゾート・ファッションが目に楽しい。カメオ出演でも驚かせ、最後の最後まで楽しませてくれる上質なミステリー映画。今度はブノワがどこでどんな事件を解決に導いていくのか、第3弾が楽しみになる。