文=酒井政人 写真提供=ナイキ

「エア ズーム アルファフライ ネクスト% 2」

プロトタイプは今年の東京マラソンで完勝

 6月16日(日本では6月22日発売予定)、ナイキから「エア ズーム アルファフライ ネクスト% 2」(以下、アルファフライ2)がリリース。約2年半ぶりとなるナイキ最高峰モデルの登場はランニングシーンをどう変えるのだろうか。

 ナイキは今年3月の東京マラソンで同モデルの〝最終テスト〟を実施していた。大会記録&日本国内最高記録を大きく塗り替える2時間3分58秒で完勝したエリウド・キプチョゲ(ケニア)が履いていたシューズがアルファフライ2のプロトタイプだったのだ。そしてキプチョゲから「OK」が出たことで、特に修正されることなく、完成形に至ったという。ナイキにとっては〝再攻撃〟の始まりになるだろう。

2022年3月6日、東京マラソンで優勝したエリウド・キプチョゲ(ケニア) 写真=代表撮影/ロイター/アフロ

 

アッパー、ミッドソール、オフセットの進化

 2017年夏に一般発売されたナイキ厚底シューズは圧倒的なスピードで驚異の結果を残してきた。他社も厚底モデルを続々と投入。この数年間でランニングシューズのレベルは急上昇した。そのなかで王者・ナイキはこの数年、新モデルを発売してこなかった。

 同社最高峰モデルである「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」は2020年1月に発表されたが、その後は新カラーとサステナブル版が出たのみ。昨年の箱根駅伝で210人中201人(95.7%)というシューズシェア率を残したナイキだが、今年の箱根駅伝は154人(73.3%)と減少した。しかし、2年3カ月ぶりに新モデルを発売することで、再びシェアを伸ばしてきそうだ。

 アルファフライ2は「エア ズーム アルファフライネクスト%」のアップデート版となる。プロダクトラインマネジャーを務めるエリオット・ヒース氏は、「アルファフライを新しいレベルに引き上げました。最高のアスリートだけでなく、すべてのアスリートがマラソンでパーソナルベストを目指す、あるいはベストフォーマスを発揮できるようにフォーカスしています」と話す。

 キーとなる進化は3つ。

 1つめはアッパーだ。アトムニットという軽い素材を使って、通気性を高める部分と固める部分で編み方・折り方を調整。足をしっかりと包み込み、走行中も足がシューズ内で安定するように甲の部分と踵まわりのクショニング性を高めたという。

 2つめはミッドソール。前モデルと同じくフルレングスのカーボンプレートを軽量でエネルギーリターンの高いズーム X フォームで挟み、前足部にはエアを搭載している。今回は踵の部分をちょっと幅広くしたことで安定性を高めた。エアポッドの下はゴムからズーム X フォームに変更。反発力が増しただけでなく、着地時の足音がソフトになった。

 3つめはオフセット(踵と前足部の厚みの差)。前回は4mmだったのが今回は8mmになった。これは昨年3月に発売された「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2」と同じ。前足部を薄くしたことで、体重移動がスムーズになるという。

「ヴェイパーフライは5㎞、10㎞、ハーフマラソン。日本でいえば箱根駅伝。いろんな距離に対応できて、使い回しができる便利なシューズです。アルファフライはヴェイパーフライのスムーズな感覚を盛り込もうということで改新しております」(ヒース氏)

 前足部にエアが搭載されているアルファフライはオフセットが小さかったこともあり、ヴェイパーフライと比べると、履きこなすのが難しかった。しかし、アルファフライ2の開発にはマラソンを3~4時間で走るランナーの意見も聞き入れたこともあり、推進力がアップしただけでなく、安定性も高まった。孤高のシューズから汎用性のあるモデルに変貌したようだ。

 アルファフライ2は白を基調とした「プロトタイプカラー」で、今後はオレゴン世界陸上や秋のマラソンシーズンに合わせて新カラーも展開していく予定。 価格は31900円(税込)で日本では6月22日から発売予定だ。

「このシューズは十分なクッション性と優れたエネルギーリターンがあるので、長時間のランニングに最適です。ラボでテストもしたんですが、このシューズでトレーニングをしていただければ、うまく履きこなす走りを自然に学ぶことができる。こういう機能はエリートだけじゃなくて、4~5時間でマラソンを走る人にも味わってもらえると思っています」(ヒース氏)

 2年半の静寂から登場したアルファフライ2。超注目アイテムだけに、今回も〝争奪戦〟になる可能性が高い。気になる方は素早くゲットするべきだろう。

 ナイキは今年2月に5~10㎞用のレーシングシューズである「ズームエックス ストリークフライ」を発売している。こちらもカーボンプレート(中足部のみ)とズーム X フォームを採用しているが、非厚底タイプ。現行のナイキモデルでは最軽量となる。

 ナイキとしてはハーフからフルマラソンはアルファフライ2、5㎞~10㎞ほどはストリークフライというかたちでカテゴライズしていきたい考えのようだ。

 また長距離用スパイクなども6月16日に新モデルをリリースする。オレゴン世界陸上(7月15~24日)で選手が使用するには世界陸連の新ルールで30日前に一般発売する必要があるからだ。

 世界陸上のスポンサーはアシックスが務めているが、オレゴンにはナイキ本社がある。加えて、陸上大国・米国にとって世界陸上の開催は今回が初めて。ナイキのシューズがオレゴン世界陸上でどれだけの〝速さ〟を見せつけるのか注目したい。