文=小松めぐみ 写真=安河内聡

「ザ・ホテル青龍 京都清水」のエントランス。ホテルから清水寺までは徒歩8分。https://www.princehotels.co.jp/seiryu-kiyomizu/ TEL. 075-532-1111

 京料理におばんざい、湯豆腐、にしんそばなど、京都にはさまざまな名物料理がある。冬はかぶら蒸しも海老芋も蒸しずしも食べたいし、夏なら鱧は外せない。だから京都に1〜2泊する時、行く店を決めるのは悩ましい。夕食は老舗や話題の店に行くのもいいけれど、宿泊先で食べるという選択肢もある。そのつもりで候補を探せば、京都には新しい高級ホテルがひしめいている。そうだ、京都ではラグジュアリー・ホテルの開業ラッシュが起きていたのだ。なかでも2020年3月にオープンした「ザ・ホテル青龍 京都清水」は、歴史ある小学校の校舎を保存・活用していることや、敷地内に人気フレンチ「ブノワ 京都」があることで話題だ。

「ザ・ホテル青龍 京都清水」の夜の外観。「ブノワ 京都」は階段下の外廊下の反対側に位置する、もとは小学校のグラウンドだった場所にある

「記憶を刻み、未来へつなぐ」ホテル

 ホテルの前身は、明治2年に開校した下京第二十七番組小学校。東山を借景とするスパニッシュ瓦の屋根やアーチ状の連窓が特徴的な校舎は、昭和8年に現在地に移転・新築して以来、地域のシンボル的な存在になっていたという。当時の教室や講堂、階段、廊下などの特徴は、現在も館内に継承され、ホテルでは空気のように自然に歴史や文化を体験することができる。また、場所は清水寺や産寧坂、二年坂、八坂神社、三十三間堂も徒歩圏内と、観光にも絶好のロケーション。実際にこのホテルに泊まって寺社仏閣をめぐると、昔の人と同じ道を歩き、同じ仏像を見ていることに感慨を覚え、確かここであんなことが起きたはずだと、頭が歴史モードになる。そうやって1日をすごすと、さまざまな歴史が刻まれた土地の「気」に気圧され、気分をリセットしたくなることがある。こういう時の夕食は、老舗に出かけるより、ホテルに戻ってとったほうがいい。日本の古いものに浸った後に「ザ・ホテル青龍 京都清水」の「ブノワ 京都」で楽しむフレンチは、冬に暖かい部屋で食べるアイスクリームのように格別だ。

「ザ・ホテル青龍 京都清水」は、小学校や地域が長年築いてきた歴史・文化を、新しい時代へ継承するというコンセプトに基づいて誕生したホテル。昭和初期の洋風デザインは館内にも活用されている。

法観寺・八坂の塔を目前に望むビストロ

 さて、「ブノワ」はフランス料理好きの間では有名なビストロで、本店は1912年にパリで創業した老舗だ。2005年からはフランスのカリスマシェフ、アラン・デュカスが設立した「デュカス・パリ」が経営を受け継いでおり、現在はニューヨーク、青山と京都にも店舗がある。アラン・デュカスが選んだアンティークの調度品や赤いシートの椅子など、京都店の内装には他の「ブノワ」の店舗と共通する要素も少なくないが、窓から法観寺・"八坂の塔"を眺めることができるのはここならでは。

法観寺・八坂の塔を目前に望む店内には、フランスのアンティークの家具がしつらえられている。96席(テラス16席)