脇役も粒揃いの名物「パテ・アン・クルート」
パリで100年続く老舗にふさわしい伝統的なフランス料理は、プリフィックスメニューで楽しむこともできるし、アラカルトで注文することもできる。たとえば、人気の前菜「パテ・アン・クルート」は、さまざまな肉のパテをパイ生地で包んで焼いたクラシックな料理。高度な技と手間を要するため提供する店は多くないが、「ブノワ」では他店舗でも提供しているスペシャリテだ。この料理の魅力は、パイ生地の香ばしさと濃厚な肉の旨み、そして芳醇でなめらかなチキンブイヨンのジュレをひと皿で堪能できること。焼く際にパテの肉が縮み、パイ生地との間に空洞ができるため、その部分にジュレを流し込んで仕上げるのが「パテ・アン・クルート」の特長だ。京都店の田中耕太シェフは、18世紀頃の美食家ルシアン・タンドレが好んだレシピを基に、パテの材料(フォアグラ、鴨、豚、鶏肉)をコニャックとポルト酒でマリネし、さらに鴨、豚、鶏肉は挽いた肉だけでなく、手で刻んだ肉も併せて用いている。そのため「ルシアン・タンドレ風」と名付けられた「パテ・アン・クルート」は、京都店ならではの逸品。別皿で供されるピクルスもしっかりした酸味と歯応えのバランスが見事で、脇役の完成度の高さにも、田中シェフの完璧主義ぶりがうかがえる。
伝統をモダンに昇華させたビストロ料理
「歴史あるパリのビストロの名前を冠している店として、ビストロ文化を日本に伝えたい」と語る田中シェフは、伝統を継承することにも意欲的。メインディッシュの欄を見れば、古典的な「ポム・ドフィーヌ」を付け合わせにした牛フィレのロッシーニや、最近は見かける機会が少なくなった“ソース”を使った料理も見受けられる。たとえば「フランス産鴨のロティ」は、鴨のだしとハチミツやスパイスを煮詰めた「ソース・ドルチェフォルト」を添えた、寒い季節の定番料理。ソースは昔のフランス料理ほど重たくないが、甘味や酸味や香りがしっかりとあり、鴨肉のコクのある味わいをエレガントに引き立てる。また、根セロリのピュレやビーツのフォンダン、イチジクや洋梨のローストなどの付け合わせも、ソースの味わいと同調するものばかり。鴨肉と交互に順番に味わうと、根菜のミネラル感や果実の甘味がさりげなく重なり、穏やかに響き合う。ソムリエおすすめのフランスの赤ワインとともに味わえば、美味の悦楽に引き込まれること必至だ。ワインセラーにはボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュを筆頭に、さまざまな地方のワインが豊富に揃えられている。
食後のデザートは、「サヴァラン」や「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のショコラを使用したムースなどの定番のほか、季節のフルーツを使ったデザートも用意されている。「モンブラン ブノワ風」(秋から1月まで)は、栗とカシスのバランスが見事なフレンチスタイル。3種の栗をブレンドして風味を活かしたマロンクリームとバニラクリーム、サクッとしたサブレの組み合わせが洒脱だ。
宿泊先のホテルのレストランで食事をする魅力のひとつは、エレベーターに乗ればすぐに部屋に着くという安心感があること。さらに「ザ・ホテル青龍 京都清水」には、ルーフトップバー「K36 Rooftop」で京都市内を一望するという楽しみもある。「K36 Rooftop」は地元でトップクラスの人気を誇る夜景スポットだが、予約することができるのは宿泊客や、「ブノワ 京都」のディナーコースを予約した人などに限られている。せっかくなら、食後あるいは食前に「K36 Rooftop」を予約し、夜空の下でグラスを傾けたり、東山の街並みに沈む夕陽を眺めたいところだ。こんなプライオリティを享受できるのも、「ザ・ホテル青龍 京都清水」でフレンチを楽しむ醍醐味である。