色々な「自分」を重ね持っている時代

——コロナもあり、時代や価値観が大きく変化している時代だと思いますが、清川さんの目にはどう写っていますか?

清川「90年代は自分を装飾して自分のことをオブジェ化していましたが、今は街を見ても、みんなマスクをして、『本当に大事なものってなんだろう?』と意識が内側に内側に向いているのを感じます。

 その上でSNSの発達によって自己表現の方法が増え、1人の人の中にも様々なレイヤーが隠れている。いわゆる「分人主義」のように、“このコミュニティに所属する自分”“こっちのコミュニティの中の自分”といろんな自分が共存しているので、1枚の写真だけでは1人の人が全然表現しきれないんですよね。

 それで今回の作品では、写真をどんどんボカすことで、ひとりの「個」でもありつつ、いろいろな自分が重なり、ただ着ている服だけじゃなくて周りの背景も含めてコミュニケーションを取り、国やジェンダーも関係なく人と繋がっていくイメージを表現しました。写真の色をネガポジ反転させることで、不安定な今の時代感も描きたかった。まさにこれが、私が見ている今の東京ですね」

——コロナ禍でアート業界も影響を受けましたか?

清川「いろいろなものが出てきましたね。今までは展覧会にいって作品を見て、というのが普通でしたが、ヴァーチャル作品とか、NFTとか、新しいアウトプットの仕方が出てきた。でも、私はやっぱりその時代の空気を感じるためにも、生の作品を見たいなと改めてわかる機会になりました。

 先が見えない時代ではあっても、私はその時代というものを表現したいし、みんなが感じている心の声みたいなものも聞こえてくるし…結局アーティストはもの作りをやめなかったんじゃないかと思います」

個展開催に合わせて京都・西陣の老舗「細尾」と共作した西陣織の作品。この作品が付属するものやロングTシャツが付属するものなど3種の豪華な作品集が完全予約受注生産で販売される

人の心を掴む「寄り添う」姿勢

——これから時代はどのように変わっていくと思いますか?

清川「ますます「個」が重視されるようになっていきそうですよね。自分が好きなことをどんどん追求していく。好きなものがどんどん細分化されて、その結果いろんな職種とか、たとえばいろんなジャンルの服とか、新しいものが生まれてくると思います。

 ファッションで言うと、昔はひとつのジャンルが確立されてましたよね。ロックならロック、ゴスロリならゴスロリって。今はいろんなものを着てみました私、みないな変身願望もあるし、何を着てもいいじゃんっていう時代になっていて、今後ますます好きなことを好きにできる時代になっていくと思います。

 20年もやっていると時代の移り変わりが見えるから面白いですよね。私はいつでもその中を浮遊して作品にできるように、一歩引いて冷静に見ているんです。様々なジャンルで時代を反映した作品にするのが楽しみで」

——人形浄瑠璃のプロデュースや舞台装飾、ミュージックビデオに写真集のプロデュースと本当にジャンルが多岐に渡っていますね。女優さんからの信頼も絶大と聞きますが、その信頼を得るためのポイントはあるんでしょうか。

清川「難しいですが・・・柔軟性だと思います。基本的に誰に対しても何に対しても“寄り添いたい”と思っているんです。自分が持っていないものを持っている人のことをリスペクトしているので、まず人の話を聞きたい。そこから私が提案できることもあるし、私の意見と合わなくても、それが個性だと思うので否定しない。そこに寄り添うようにしています。
 あとは新しいことをひたすらやりたいという好奇心と形にしたいという行動力が強いので、そこに向かってがむしゃらにやるのみです」