文=三村 大介 写真提供=根津美術館

根津美術館外観 庭園サイド

言葉の栄枯盛衰

 先日、その年話題となった言葉を選ぶ『2021新語・流行語大賞』(「現代用語の基礎知識」選)のノミネート30語が発表された。

 やはり今年は[13歳、真夏の大冒険]「ゴン攻め/ビッタビタ][ピクトグラム]など、東京オリンピック・パラリンピック関連の言葉がもっとも多くノミネートされている一方、1年の大半を緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の中で過ごしたこともあり[路上飲み][副反応][変異株]といったコロナ禍関連の言葉も昨年に引き続き選出されている。

 また、[マリトッツォ]や[ウマ娘]といったまさしく流行を反映した言葉や、日本だけでなくアメリカをも席巻した大谷翔平の[ショータイム]と[リアル二刀流]も候補に挙がっているが、中には[SDGs」[Z世代」[ととのう]など、「はて?何でいまさら?」と不思議に感じるものや、[エペジーーン]や[チャタンヤラクーサンクー]など、「えっ?どこで流行っていたの?知らないのは私だけ?」と焦ってしまうものもあったりする。

 いずれにせよ、このノミネート発表は私にとってその年を振り返りつつ、言葉の栄枯盛衰というものを改めて考える絶好の機会になっている。

 

[エモい]建築って何?

 さて、ここでみなさんに質問。みなさんは[エモい]という言葉をご存知だろうか?

 赤くキレイな夕焼けが[エモい]、センチメンタルなドラマのラストシーンに[エモい]、切ない声とシンプルなメロディが[エモい]・・・。

「知っているどころか、完璧に使いこなしているよ」というあなた。私はあなたをリスペクト。この[エモい]という表現はなんと、10年以上前から存在していたようで、2016年に『今年の新語』(こちらは三省堂選出)で2位にランクインしたことをきっかけに、一気に世間での認知度が高まったそうだ。今では10代~20代の若者を中心に、日常的に使われる言葉としてすっかり定着しているらしい。もちろんSNSにも疎い私には使う機会は全く無い・・・。

 この[エモい]は、その文字から想像できるように、英語の「emotional(エモーショナル)」を由来とした言葉ということだ。郷愁、懐古、感傷、感動、哀愁・・・何かを見て、聞いて、心が揺さぶられる、何か一言では言い表せない複雑な感情を引っくるめて[エモい]。

 見識者の中には、[エモい]は感性の腐敗、若年層の文脈読解能力の低下であるとして嘆いている人もいるようだ。確かに、なんでもかんでも[エモい]だと辟易するし、乱発して使っている人とは分かり合えないような気がする(幸い[カワイイ]や[ヤバい]としか表現できない友人・知人は周りにいない)。

 しかし、私はこうも考える。[エモい]はもしかしたら[あはれ]そして[をかし]と同じ感覚なのではないかと。

 辞書によると、[あはれ]は「しみじみとした情緒美」を、[をかし]は「明朗で知性的な感覚美」を表す平安時代における文学の基本的な美的理念であり、[あはれ]の代表作は紫式部の『源氏物語』で、[をかし]の代表作は清少納言の『枕草子』であるとのこと。

 これらの日本文学の根幹にある、調和美、優雅美、静寂美、悲哀美・・・このような美意識、価値観は間違いなく現代日本人のDNAにもしっかり刻み込まれていると思う。だとすると、[エモい]という言葉も現代日本の美意識を表しているのではなかろうか? そう考えると、その言葉をあながち否定できないのは私だけだろうか。

 ということで、ここで私も[エモい]建築を1つ紹介しようと思う。隈研吾による《根津美術館》である。