JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第12回はエディトリアルディレクター・福留亮司がカルティエの「サントス‐デュモン」を紹介します。

文=福留亮司(初出:2021年1月29日)

サントス‐デュモン /クォーツ、SSケース、38×27.5㎜、38万5000円

知りたい50万円以下のモデル

「いい腕時計をひとつ持っておきたいんですが、何がいいですかね?」

 と、たまに聞かれることがある。そんなとき、ついつい価格が高めのモデルを言ってしまうことが多い。

 何度もスイスに足を運んで取材をし、いいモデルを見せてもらっているので、ちょっと感覚が麻痺しているのかもしれないと反省しつつ、各ブランドのモデルを見直してみた。とくに彼らが知りたがる50万円以下のモデルを中心に。そして、いくつか“いいなぁ”と思うモデルを再確認した。

 その中のひとつに、カルティエの「サントス」がある。なかでも2019年にリニューアルし、そのラインナップにあるレトロ調のモデル「サントス‐デュモン」はとてもいいと思う。近年は、かつて存在したモデルをベースに現代的な解釈で新しい腕時計を生み出す、いわゆる復刻モデルが人気なのだが、クラシカルなデザインということでは「サントス‐デュモン」は抜群にいいと感じている。

 もちろん「サントス」は復刻モデルではない。現役バリバリで、カルティエの柱のひとつとして、現在も人気のコレクションである。

 

操縦かんから手を離さずに時間を確認

 この「サントス」、そもそもは気球での初飛行を成功させていたブラジルの飛行家、アルベルト・サントス=デュモンから、「飛行中でも、操縦かんから手を離さずに時間を確認できる時計を」との依頼を受け、1904年に完成させたものだ。

時計の顔である文字盤は一目で誰もがそれとわかる。リューズのブルーカボションと相まって、まさにThe Cartierである

「サントス」は飛行中での使用ということもあり、飛行機からインスパイアされたケースは、懐中時計の定番であるラウンド型ではなく、スクエア型となった。しかも4つの角が丸みを帯びたデザイン。さらに飛行機部品をつなぐネジをイメージしてケースにビスが埋め込まれるという独特のスタイルで登場したのだ。

 そして、その個性的なデザインの時計には、腕に装着したまま時間が見えるようにレザーストラップが付けられていた。その後、この画期的な“腕時計”は、11年に量産化され、またたく間に世界的人気のコレクションになっていった。腕時計の時代がいよいよ始まったのである。