——軍雪さんには日本人的でもイギリス人的でもない、個人としての圧倒的なオリジナリティがあります。「世界一、真似された男」という別名があるくらい模倣者も続出していますが、誰も軍雪さんにはなれない。それに関してはどのように意識していらっしゃいますか?
鳥丸 私は人の物真似はうまいんですよ。しゃべり方とかしぐさとか(笑)。でも作品に関してはプライドを持っているので、真似はしません。
コロンブスの卵の話ってあるでしょう? ある晩餐会でゆで卵が出てきた。これを立てることはできるか? みんな試すんだけどできない。だけどコロンブスは卵の殻を割って立てることに成功しました。
将来何をしようか? と考えた時に、よしそれで生きよう、と思ったのです。誰にもできるあたりまえのこと、でもだれも考えなかったこと、それをやってみようと思って仕事を始めたのです。オリジナリティの追求ということでは、そこを意識しています。
——今、取り組んでいらっしゃるプロジェクトは何ですか?
鳥丸 一枚の布をダーツも使わずに彫刻のように造形していく、という作品作りです。なんでもあり、というのはラクですが、ダーツ使用禁止というふうに自分に制限を与えて作ったほうが新しいものを作る余地が増えます。
2年かけて、60着作りました。最初は10着もできたらバリエーションがないだろうと思いましたが、意外とどんどんアイディアが出てきて。この作品群は、これからZOOMでヴィクトリア&アルバート美術館にプレゼンテーションします。
——着るための服ではないですね。一枚の布でこういうものができるという表現であり、一種のアートです。
鳥丸 写真を撮って本にまとめる、ということはしたいです。オリジナリティの追求は絶えずおこなっています。せっかく生まれてきたのに、誰かの物真似をしたってしょうがないじゃないですか。
——タイムレスなものを作りたいとおっしゃったのですが、タイムレスな美しさとはどういうところにあるとお考えになりますか?
鳥丸 タイムレスな美しさは、着る人のハートにあります。人生に対する価値観。感情、愛情、気持ちはエジプト時代から変化がありません。その中の美しいもの、変化のないものはなにかと考えています。
今の時代でも人間が感動することは同じ。根本的に人間として変化しないものの表現。それがタイムレスということではないでしょうか。
——軍雪さんの作品はタイムレスにして古典になりつつありますね。
鳥丸 アヴァンギャルドとして出てきたんですけどね(笑)。アヴァンギャルドが古典になった。
タイムレスですね、と言われる時が一番うれしい。なによりも追求していることなので。難しいことではありません、簡単なことなのです。
何もないところから新しいものを探していく
——現代では簡単なことをみんな難しくしているように感じます。
鳥丸 私は作品をつくるとき、難しく考えることはありません。デザイン画を描いて洋服を作るのではなく、洋服ができてからデザイン画を描くのです。
布に向き合うとき、まだ何を作るのかわかりません。作りながら、どんどん発見していくのです。まずは素材を大事にする。素材は人間と同じように頑固で、やさしさもあって、これ以上無理させないで、ひっぱらないで、と言ってくる。引力に左右されて、布が垂れていくので、それには逆らうことはしません。
——それを極めたのがドレープですね。軍雪さんがドレープの魔術師と呼ばれるゆえんです。
鳥丸 自然に逆らわないのです。人生も同じです。私はチャンスがおとずれると、すべて受け入れてきました。逆らわないのです。どこまで自分が自分なりに昇華してサイクルを回せるか。計算しないでチャレンジしていく、という考え方がそこにあります。