——そんな考え方はどこから生まれてきたのですか?

鳥丸 川の水の中の藻です。藻は、水の流れに沿って動いていきます。故郷の宮崎で、ずっとそんな自然の風景を眺めていて、そこからインスピレーションを得てきました。

玄関を植物で覆うことで外部からみえない仕様 写真提供=鳥丸軍雪

 戦時中、宮崎にはなにもないのです。美術館も映画館もない。何もないところからインスピレーションを探すという風に育ってきました。メキシコに行ったからメキシコの何かにインスパイアされて作る、というような作り方をしないのです。

——「文化の盗用」問題とは無縁ですね(笑)。

鳥丸 はい、何もないところから、エンプティなところから、新しいものを探していく。深い霧の中にいるような感じで、そのなかに何があるかを探していくのです。

 宮崎の自宅の広い窓から霧島連峰が毎朝、見えます。霧が真っ白になって連邦が全部隠れることがある。あれがイメージ源でしょうか。

自宅から見える霧島連峰 写真提供=鳥丸軍雪

——とはいえ、天才ではない多くの人は「無」から何かを生み出すのは困難だと感じます。

鳥丸 実はたくさんあるはずなのです。ただよく見てない。きちんと感じてないだけなのです。

——軍雪さんのテレビドキュメンタリーで、布を触りながら、永遠に布をゆらしながらさわっているシーンがありました。素材とずっと戯れている、というような。

鳥丸 何を作るべきかは、素材が教えてくれるのです。だからこそ、素材を好きにならなくてはならない。素材に恋しなくてはならないのです。

——さまざまな仕事や人生の局面に通じる深いお話ですね。対象をよく見る、対象を好きになる、というのは基本にして究極です。軍雪さんは作品のオリジナリティにおいても社会に向き合うアティテュードにおいても、本物のアーティストだと思います。軍雪さんご自身の伝記映画の製作も進んでいるとのこと、今から楽しみです。

*軍雪さんにおつなぎいただいた関西学院大学教授の井垣伸子さん、株式会社アイ・コーポレーション代表の西村京実さんにお礼を申し上げます。