文=甲斐みのり 撮影=平石順一
「ビスケット缶」のニューフェイス
おおよその缶のサイズは、縦18センチ×横12センチ×高さ6.5センチほど。一般的な弁当箱より一回りほど大きいけれど、一見するとビスケット缶としては華奢に見える。ところが重量は片手を使うだけでは足りぬほどズンと重い。そっと両手で持ち上げると自然と腕や肩にも力が入り、体全体で缶の中身の存在感を受け止めていた。
流麗に文字がデザインされたフタを開くと、なんとも美しい風景がそこに。「ヨーロッパの美しい田園風景のよう」とあらかじめ聞いてはいたけれど、確かに小さな缶の中に、力強く私たちを支える大地の営みが見える。深く深呼吸して香ばしい香りを胸いっぱいに吸い込んでから、お茶の時間の支度をするため、熱い紅茶を丁寧に淹れた。
2021年の3月、〈ピエール・マルコリーニ〉出身のメンバーが港区三田に開店した〈シヅカ洋菓子店 自然菓子研究所〉。地球環境に負担をかけないサスティナブル(持続可能)な栽培方法で収穫された、自然にも人の体にも優しい原料を使って菓子作りを行う。
「SHIZUKA(シヅカ)」とは、「自束」「自然の束」「自然を束ねる」という意味。 コロナ禍になり、環境意識の高まる現状を垣間見て、地球環境と身体に優しい、心暖まる原点回帰のブランドを作りたいという思いから立ち上げたという。食材や原料は極力、有機栽培や減農薬栽培の取り組みを行う農家や生産者のものを、またショッピングバッグや箱はすべてFSC認証の紙を使用しているとか。
過剰な味付けをせず原料そのものが持つ旨味を引き出し、仕上がりの色合いは焼き色に委ねる。そんな自然と調和した「しあわせ(自合わせ)のお菓子」の代表作が、このナチュラルビスケットの詰め合わせ「No. 1 Shizuka Biscuit」だ。
ビスケットの味は、国産蜂蜜を使った「ハニー」、有機紅茶の芳しい香りを含んだ「紅茶」、北海道産小麦の全粒粉と鹿児島産キビ糖を使用した「全粒粉」、国産蜂蜜と有機カカオパウダーを練りこんだ生地にドミニカ産有機カカオで作るチョコレートチップを加えた「ダブルカカオ」、“ラムの貴婦人”と称されるフランス産のネグリタラム酒に漬け込んだ有機サルタナレーズンの香味が際立つ「レーズン」、キャラメルコーティングした有機アーモンドたっぷりの「フロランタン」と、6種類。
小麦は北海道産の「はるゆたか」、バターは北海道十勝の生乳で作るコクが強い「よつ葉」のバター、砂糖は精製していないため天然のミネラルが多く含まれる鹿児島産のさとうきびから作るキビ糖と、上質な国産の素材がふんだん。しっかりザクザク歯ごたえのある素朴で実直なビスケットを噛み締めながら、「ああ、これが本当の甘さ、本当の苦みなのだな」としみじみ感じ感じ入る。
ビスケット一枚で十分食べ応えがあるのも嬉しいところ。おやつの時間はもちろんのこと、ちょっと贅沢な食事として朝食に味わうのもおすすめしたい。