アジャイルとスクラムを推進する中心的人物が一堂に会した瞬間。右から野中郁次郎氏、平鍋健治氏、スクラムの提唱者であるジェフ・サザーランド氏(写真:Publickey 新野淳一氏)

 アジャイル――。本来はソフトウェア開発という限られた分野で使われていたこの言葉を、ソフトウェア開発とは関わりのないビジネスパーソンが聞いたり話したりすることが増えている。では、そもそも「アジャイル」とは何なのか。はやり言葉として使う前に、その本質的なところを手短に押さえておこう。(JBpress)

(※)本稿は2021年4月7日に発行された『アジャイル開発とスクラム 第2版』(平鍋健児、野中郁次郎、及部敬雄著、翔泳社)より一部抜粋・再編集したものです

ソフトウェアの作り方が変わり始めている

 ソフトウェア開発の現場は世界的に大きく変わろうとしている。従来は、作るソフトウェアについての要求を事前にすべて収集・把握し、それを分析・設計・実装し、最後に全体テストをする、といういわゆる「ウォーターフォール」手法で進められてきた。基本的に各工程間の後戻りを許さず、ドキュメントで工程間を伝達する手法だ。

 現在は「アジャイル」と総称される一群の手法の採用が進んできている。アジャイルとは、優先順位が高い機能から動くものを作り始めて短い時間で一部を完成させ、それを顧客やユーザーに早く見てもらい、フィードバックを受けながらソフトウェアを成長させる手法だ。「スクラム」は、その一群のアジャイルの中で最も普及した具体手法の1つである。

 米国で発祥したこの新しい手法は、欧米を中心に世界的広がりを見せている。

 アジャイル開発がここまで広まったのは、従来の手法がビジネスの変化の速さについて行けなくなったことが大きい。開発を始めて終わるまでに、既に市場環境が変わってしまっていることがある。

 インターネットやクラウドを利用したサービスのソフトウェア開発が増えてきたことも大きな理由だと考えられる。この世界では、徐々に顧客を獲得しながらサービスを拡大するのが一般的だ。

 例えば、営業支援ツールをWebサービスとして提供するセールスフォース・ドットコムは、米国西海岸のスタートアップから成長した企業だが、2006年にスクラムを全社的に採用して一気にサービス開発のスピードを上げた。また、グーグル、フェイスブックといった新興Webサービス企業では、内部で自然にアジャイル開発が行われている。

スピード感が求められるビジネス環境

 アジャイルを開発手法として採用する流れは、日本でも最近になって大きく進み、特に楽天やリクルートに代表されるWebサービスをコア事業としている業種やネットゲーム業界を中心に、広まりつつある。ソーシャルネットワーク、クラウド、スマートフォンなどがビジネスを取り巻く環境を激変させ、既存のビジネスモデルは生き残りを賭けて抜本的な変化が求められている。