文=松原孝臣 写真=積紫乃
・上村愛子が愛する白馬(1)上村愛子が語る、白馬村がスキーヤーに選ばれる理由
季節を問わず多くの人が訪れる白馬村
スキーリゾートの町の人からときに耳にするのが、雪のない季節に、いかに人に来てもらうかということだ。
でも白馬村は、季節を問わず、多くの人々が訪れる。雄大かつ美しい山々をいかすための試みがなされてきた。
「八方や岩岳のゴンドラを降りたところにテラスがあって、カフェもあるし、そこでゆっくり時間を過ごすことができます」
上村愛子は言う。
フリースタイルスキー・モーグルの選手としてオリンピックに5大会連続で出場しそのすべてで入賞、ワールドカップ総合優勝、世界選手権金メダルなど世界のトップスキーヤーの1人であり、子供の頃から長い年月を白馬で暮らしてきた。
上村の言うテラスの1つ、例えば、岩岳の「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」。麓からゴンドラリフトに乗り、約8分で到着する場所にある。
「そこからの景色は私もびっくりしました。地元の人もあまり見ていなかった景色がありました」
白馬三山を中心とする山々に向かって、テラスが作られている。そこから目をやれば、建物もなく、ただ、山々と木々の織り成す光景が目に映る。
「たいていのところからはなにかしら建物とか目に入りますが、全部が山。ゴンドラで行けますから、大変な思いをせずに見られるんです」
テラスだけではない。今年、大型のブランコができて、まるで山に飛び込むようだと話題を集めた。テラスと反対側は、腰掛けてゆっくり村の光景を楽しむ広場があるし、そこでは羊が草を食んでいる。
レストランのほか、ニューヨーク発の人気ベーカリー「THE CITY BAKERY」もある。
「白馬とニューヨークは緯度が同じなんだそうです」
緑の季節も、とりわけ紅葉の季節も、多くの人が訪れる。それこそ、1時間、2時間とテラスに座り、景色を眺める人も珍しくない。たくさんの人がいても、言葉がないかのように、不思議に静けさを感じる。
テラスからの山々は、驚くほど近くに思える。こんなにも近くに感じるからか、その迫力ゆえに、魅入られたように、視線は山々に吸い込まれる。犬を連れてゴンドラを降り立ち散歩させている人がいれば、自転車とともにゴンドラを降りる人がいる。
「そうなんです。自転車ごと運んでくれるから、そこからコースをマウンテンバイクで降りることができます」
山頂にビーチ!?
岩岳に限らない。八方尾根には標高1400mのうさぎ平に、「山の上のビーチリゾート」をうたう「白馬マウンテンビーチ」が昨年オープンした。
広いスペースにハンモックやビーチチェアなどがある「ビーチラウンジエリア」、「サウナ&ジャグジーエリア」があり、サウナやジャグジーを楽しむことができる。またバーもあり、初夏から秋にかけて人気を博した。
山をいかし、山の魅力を伝える努力がなされてきたが、そこにとどまらない。今年、久しぶりに長期的に白馬で過ごしてきた上村が実感した変化があった。
「夏でも魅力あるものをたくさん発信しているなと思いました。今までは『自然の中で遊んでください』という感じでした。だから慣れていない人には景色を見る以外の楽しみ方をするにはハードルが意外と高かったかもしれない。でも今は、自転車がやりたいなら麓に自転車屋ができているし、パラグライダーもあるし、湖ではSUPをできる。いろいろなアクティビティがあるんです」
SUP(サップ/スタンドアップパドルボード)とは、ハワイ発祥のボードスポーツ。ボードの上に乗り、水に浮かんでいるような感覚が味わえることで人気を広げている。白馬には湖があり、そこで楽しむことができる。
白馬で時間を過ごすためのたくさんの「入り口」が生まれていることを上村は感じ取ったのだと言う。
「SUPもやってみましたけど、基本、波があまりない湖なので難しい感じはなかったです。楽しかったですね」
数々の努力を重ねて、白馬は多くの人を呼び込む地となった。でも、単なる開発とは一線を画している。
上村の言葉がそれを裏付ける。(続く)
上村愛子(うえむら・あいこ)
フリースタイルスキー・モーグルの選手として冬季オリンピックに5大会連続で出場しすべての大会で入賞。世界選手権優勝、ワールドカップ年間総合優勝を達成。2014年4月に現役引退。次代を担う選手の育成や普及に努めるほか多方面で活躍。平昌冬季オリンピックではキャスターとしてさまざまな競技を現場から伝え、高い評価を得た。