AIをはじめとするテクノロジーの進歩によって、これまでに無かった新しいアイデアやビジネスモデルが次々に登場してきている。しかし先進技術の中には、自社のビジネスに落とし込んだ際の成果が予測しづらいものも少なくない。
そんな中、意思決定層と開発現場をつなぐ重要なプロセスとして「PoC(概念実証)」がある。特段新しい概念ではないが、社内だけでなく社外との連携を考える際にも非常に重要なプロセスの一つだ。ビジネスの最初期の段階で行うPoCについて、ポイントを押さえていこう。
「PoC(概念実証)」というプロセスの重要性
PoCは「Proof of Concept」の略語で、日本語では「概念実証」や「コンセプト実証」等と訳される。新たな技術や理論、アイデアが実現可能かどうかを実証することを指す。
しばしば「プロトタイプ」と混同されるが、こちらはコンセプトの方向性がしっかり定まった段階で実用化を前提に検証されるものであるのに対し、PoCはそのコンセプト自体が実現可能かどうかを見極めるためのもの。当然、PoCの結果によってはプロトタイプを制作する段階にまで達しない可能性もある。
どんなに目新しく素晴らしいアイデアに見えたとしても、実際に動かしてみると事業の目的に合わなかったり、実は収益化が難しいことが判明したり等、想定外の問題が発生する可能性がある。経営層の認識と現場の認識に乖離が生じていることもあるだろう。そうした問題を最初期の段階で発見し、必要に応じてコンセプトを修正するか別の道を模索するのかを決定するためにPoCを行うのだ。
実際の稼働環境で試験するソフトウェア開発やセキュリティ分野、臨床試験を行う医薬品の研究開発、短編映画で市場の反響をはかる映画制作など、PoCは様々な分野で活用されている。とくに最近では事業のデジタル化に際してその重要性が取り沙汰される場面も多い。
企業におけるIT利活用に関する調査や研究を行う日本情報システム・ユーザー協会が5月23日に発表した「デジタル化の取り組みに関する調査」の速報値を見ると、「デジタル化への対応による課題解決にあたり、工夫している点(複数回答可)」として最も多く挙げられたのが「できることから小さく始める」(72.1%)で、次が「トライ&エラー、PoCを繰り返し実施」(65.5%)だ。なお、同調査の回答者層は企業のCIOやIT部門、業務部門、経営企画部門、デジタル化推進部門の役員・管理職ならびに情報システム子会社の社長、役員、管理職とある。
AIやIoT、RPA(ロボットによる業務自動化)といった新技術を事業に取り入れるには、PoCを繰り返し行うことで有用性を見定めることと、経営陣と現場とのギャップを埋めていく必要があるのだろう。
PoCに取り組む際の注意点
不完全な状態で良いので、スモールスタートで「とにかく実証」するために行うのが、PoC。これを理解していれば合理的で有用なプロセスなのだが、あまり固執すると以下のようなビジネスに良くない影響を及ぼす危険性も。
①コストがかさむ
PoCを実施する目的の中には、アイデア等を実現した場合のコスト感を掴むというものがある。しかし当然、PoCを行うためのコストや手間、時間も必要となる。PoC段階で必要以上のクオリティを求めて工数やコストをかけすぎると、PoCを行うメリットそのものを潰してしまう。PoCはあくまでも核となるコンセプトを実証するためのものという本来の目的に立ち返り、細部は切り捨てる覚悟が必要だ。
また他社との協業であればなおさら、PoCにかけるコストの上限は事前に明確にしておくべきだろう。
②「PoC疲れ」を引き起こす
PoCを行うこと自体が目的になってしまうと、現場の負担が増えてコストもかさみ、その割に一向に結果が出ないといった事態にもなりかねない。これを避けるには、PoCを行う目的や評価軸を明確にすること、そしてPoCを実施した後は必ずフィードバックを行う必要がある。
PoCを実施した結果、事業にはならないことも当然あるだろう。それ自体は失敗ではない。しかしPoCが終了した時点ですぐに「失敗だった」と放り投げてしまっていては、かけた工数もコストも無駄になってしまう。
「数打てば当たる」方式でPoCを行っても意味は無い。目的や評価軸、期間やコストを明確にしてからスモールスタートで始めよう。終了した際は、結果に関わらず必ずフィードバックを行い、知見を蓄積する。これがPoCを失敗させないための基本条件といえる。