日本文化の土俵に引き込んで海外の観客に「ブッ刺さる」

石上さんは「ちょっと語弊があるかもしれませんが」と断りつつ、「アートって、どれだけ“文化マウント”を取れるか、だと思うんです」と言う。

「美術」という概念は明治時代に輸入され、以来、日本のアートはずっと西洋の美意識、価値観を模倣し、追随してきた。つまりマウントを取られ続けてきた。そのフィールドで、アジアの辺境の工芸品が、西洋と戦おうとするのは無謀だ。だが、こちらがマウントを奪えば、形勢は逆転する。逆張りの戦略だ。

「それには、ある種の緊張感で、観客を圧倒する力が必要だと思いました。茶会という、我々の土俵の中に観客を引き込んでプレゼンテーションをすると、海外の観客は緊張して、ぶっ刺ささっている(笑)。そして自分たちのコンセプトに耳を傾けてくれるんです。茶会"Ichinen”に込めた平和へのメッセージに、涙を流している人もいました」

顧客は若手ビジネスパーソン。日本のアイデンティティを工芸で買う

B-OWNDの取扱作家のラインアップは、若手から代々の茶陶の工房まで幅広い。共通しているのは、見て美しく、ワクワクするものだ。

博多人形4代目の中村弘峰は、アスリートなどをかたどった人形を製作する。 球場の軍師 ー孔雀松ー(2023)

ウェブサイトは見やすく、作家紹介の動画もあって、感覚的に作品選びができる。購入者にはブロックチェーンの技術を使った証明書が発行されるため、工芸につきものの「贋物」の心配がない。技法や素材、伝統の話に終始し、「初心者」を拒絶しがちだった日本の工芸の世界に現れた、コレクターフレンドリーなアートプラットフォームだ。

B-OWND取扱作家、奈良祐希は、建築家でもあり、陶芸作品はCADで設計。建築と陶芸の融合をコンセプトとしたオブジェを制作
B-OWND取扱作家、ノグチミエコはガラスの中に宇宙を閉じ込めたような幻想的な作品。吹きガラスの技法が用いられている

顧客は、それまで工芸に関心のなかった30−40代のビジネスパーソンやアートコレクターが多いという。

「世界に出て活躍している若い経営者の方が『日本のアイデンティティとは?』と疑問に思ったとき、工芸や茶の湯の中にその答えがあるんじゃないか?と作品にアプローチする。そんなパターンもあります」

古賀崇洋のスタッズのついた酒盃と片口。工芸は用途ゆえにアートと見られなかったが、欧米では「使えるクール作品」という評価もある

石上さんも顧客の多くも30代。彼らが工芸に注ぐ視線は、それ以前の世代とは全く異なっている。「取り扱う作家さんを選ぶときのポイントは、歴史性と時代性、それと個人性の三つの交わりが大きい人」。伝統や権威、世襲の名前を重視していたこれまでの工芸の価値観とはまったく異なる評価軸を打ち立てようとしている。その原炉動力は、日本文化への新鮮な眼差し、純粋なリスペクトだ。 

「僕たちは、小さな頃から常に海外の情報を浴び続けてきました。上の世代と違って、海外への憧れは薄いし、むしろ、フラットに見ているし、日本文化の方がすごくない?と感じている人が多い気がします」

B-OWND gallery (阪急メンズ東京7階)では、B-OWNDが扱う工芸作品を展示する。随時、個展も開催している