自身の舌を頼りに、イタリアで食べ歩くことが修行の場だった

 若くして、働いていた店を任されてしまった藤田さん。数年後はイタリアへ、と意気込んでいたがそれもままならない状況におかれ、出そびれてしまったという。代わりに毎年欠かさず休みを利用してイタリアへと通った。店を任されて10年がたった頃、下の料理人が育ってきたこともあり、思い切って2ヶ月の休みをとった。

 ローマにアパートを借り、始発電車に乗って北へ、南へとイタリアの都市を回り、レストランで食べたり、時には厨房を見せてもらったり、でも最後は必ず終電でローマへ戻って来る。これはなかなかにハードなスケジュールだった。だから遠出をするのは1日おきにして、その合間はローマで食べ歩き、市場で食材を買って作ることもあったという。

ワインもほぼイタリア。料理によくあうワインが揃う

「ローマで地元の人が行く店はどこだろうと探したらあったんです。テスタッチョ市場というのがあって、その周りにレストランが集まっているんですよ。どこもおいしくてしばらく通いましたね」。

 その中の一軒で出会ったのが、牛モツのトマト煮込みで和えたパスタ『リガトーニ・コン・パイヤータ』だ。

「牛モツの煮込みはローマ料理なんですが、おいしくてインパクトがあって、こんな料理が作りたいって思ったんです。うちではオープン当初からメニューにあります。初めての人はまず頼まないし、私もとくに推さないし、でもそのぐらいがいいでしょ(笑)。 知っている人は絶対に食べますけど。店をやる時に、じゃあローマ料理にしようかなと思ったのもこの一品があったからです」という。

 独立後も毎年のイタリア詣では欠かさないという、今でもローマに行くと、その店に足を運んで食べる。「味を確認する感じですかね」と続けた。