大谷 達也:自動車ライター

2014年に登場した初代『2シリーズ アクティブツアラー』は「BMWなのに前輪駆動」として話題になったもののBMW度はいま一歩だった。2022年6月に全面リニューアルして日本デビューした2代目はどうなった?

最近のBMW

 客観的なデータのない個人的な印象で恐縮ながら、ここ2、3年ほど、ヨーロッパのプレミアムブランドがリリースするブランニューモデルの数が急激に減っているような気がしている。既存のモデルをマイナーチェンジする例はなくはないけれど、フルモデルチェンジないし完全な新規モデルを投入する数は確実に減っているというのが、私の見たて。

「その分、電気自動車(EV)がゾクゾクと登場しているから仕方ないでしょう」という捉え方ももちろんあるけれど、エンジンを積んだクルマに長年慣れ親しんできた層にとっては一抹の寂しさを感じる状況かもしれない。

 そうしたなか、積極的に「フルニューのエンジン車」を投入し続けているのがBMWだ。ここ1年間に限っても、昨年6月に2シリーズ・アクティブツアラーを発表したのを皮切りに、7シリーズ(同7月)、XM(今年1月)、X1(今年2月)、M2(今年2月)を新規投入。なかにはXMのようにプラグインハイブリッドモデルも含まれているものの、エンジンを搭載した新型車をこれだけ積極的に投入しているプレミアムブランドは希有な存在といって間違いない。

パワー・オブ・チョイス

 その秘密の一端は、BMWが展開する「パワー・オブ・チョイス」という戦略にある。

 パワー・オブ・チョイスとは、ひとつのプラットフォームでエンジン車、ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車、EV、燃料電池車(FCV)などを作り分ける商品構成のこと。言い換えれば、「パワートレインの種類によってモデルを選ぶ」のではなく、「ひとつのモデルでパワートレインを自由に選べる」ことを目指して、BMWはこの戦略を展開しているのだ。

こちらはBMWのFCV(燃料電池車)「iX5 Hydrogen」の国際試乗会&ワークショップの一幕
参照: BMWのFCV「iX5 Hydrogen」に乗って考える|燃料電池車にはどんな価値があるのか?
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74110

 おかげで、エンジン車だけでなくEVも次々とリリースしており、たとえば7シリーズはエンジンを積んだマイルドハイブリッドモデルに加えてEVのi7もラインナップ。同様にしてi4、iX3、iX1などがすでに発売されているほか、間もなく5シリーズ・ベースのi5がデビューする見通しである。

 ひとつのプラットフォームからエンジン車とEVを作り分けることは、顧客に選択の自由を提供するだけでなく、柔軟な生産計画を構築するにも役立つ。つまり、市場の需要にあわせてエンジン車とEVを織り交ぜて生産できるわけだ。しかも、開発費をエンジン車とEVで(部分的にせよ)折半できることもメリットのひとつ。BMWが積極的にエンジン車をリリースできている背景には、このパワー・オブ・チョイスという戦略が功を奏しているとみていいだろう。

パワー・オブ・チョイスの申し子

 もっとも、パワー・オブ・チョイスを実践するのは容易なことではない。端的な話、エンジン車を作るなら、プラットフォームはエンジンやギアボックスを積むのに都合のいい形、つまりはフロアに凹凸のある形状が望ましいが、ボディの低い位置に大量のバッテリーを敷き詰めるEVの場合、フロアはできるだけ真っ平らなほうが好ましい。そうでなければたくさんのバッテリーを積めず、結果的に航続距離も短くなってしまうのだが、たとえばi7はエンジン車とプラットフォームを共用しながら、105.7kWhという大容量バッテリーを搭載。EVとしては世界最高水準の650kmという長い航続距離を実現している。つまり、パワー・オブ・チョイスはEVの性能を犠牲にして実現した戦略ではないのだ。

 前置きがだいぶ長くなってしまったが、昨年6月にリリースされた新型2シリーズ・アクティブツアラーの218dについてご紹介しよう。

 2シリーズ・アクティブツアラーのEV版はまだ発表されていないが、発売済みのEVであるiX1と、おおまかにいえばプラットフォームは同じ。したがって、218dもパワー・オブ・チョイスの申し子といって間違いない。

 ちなみに218dは150ps/360Nmの2.0リッター・ディーゼルエンジンをフロントに横置きする前輪駆動モデル。スタイリングはミニバン風にも見えるが乗車定員は5名の2列シートで、車両価格は476万円。テクノロジー・パッケージやハイライン・パッケージなどのオプションを装備した試乗車の価格は574万2000円となる。