清張と女性

 清張の編集担当は女性編集者も多かったそうです。

 こんなエピソードがあります。

 銀座の和光の近くで、ある女性編集者と待ち合わせした時、相手がだいぶ遅れて来たことがありました。

 すると清張は怒りもしないでそのまま和光に連れて行き、高価な時計を買ってプレゼントすると、こう言ったそうです。

「この時計があるから、もう、遅刻しないよね」

 また、女性編集者が家に来ると、ビスケットやチョコレートなどをたくさん用意して、「持って帰りなさい。君、お腹空くでしょう。編集者っていうのは時間がないもんだから、いつでも食べられるように持っておけばいいじゃないか」などと言って渡したそうです。「先生、そんな高いものいただけません」などと相手が遠慮すると、「君のために用意したんだよ」とバッグに突っ込んだというエピソードがあるほど、女性たちに優しかったといいます。

 そして、「そのスケスケの洋服はなんていうの?」「先生、知らないんですか、シースルールックですよ」などというように、女性たちから流行のものを教えてもらったそうです。

 このようにして清張は女性たちを虜にしながら、わからないことは恥ずかしがらずになんでも訊き、そこからイマジネーションを働かせて、小説の世界を構築していきました。そこがまた、大衆に受け入れられた理由のひとつだと思います。