文=小松めぐみ 写真=安河内聡

ドミニク・ブシェのスペシャリテ「雲丹とキャビアを添えたオマールブルーのジュレ」

 京都を旅する食いしん坊にとって、夕食をとる店を選ぶのは悩ましいものだ。京都は日本料理の伝統を受け継ぐ地ゆえ、街には老舗や有名店がたくさんあるが、旅行者には宿泊先で食事をするという選択肢もある。2022年現在の京都には開業したばかりのホテルがひしめいているし、既存のラグジュアリー・ホテルもリニューアルして見違えるようになっている。たとえば創業132年の歴史を持つ「ウェスティン都ホテル京都」は、村野藤吾氏が手がけた建築美を継承しつつ、2021年に大規模なリニューアルを果たしたばかり。客室数を499室から266室に減らして1室あたりの平均面積を約50㎡に拡大しただけでなく、敷地内で採掘した天然温泉のスパもオープンした。2019年末に3階に誕生したフレンチレストランDominique Bouchet Kyoto「Le RESTAURANT(ル・レストラン)」と「Le Teppanyaki(ル・テッパンヤキ)」は、いずれもパリと東京で活躍中のフランス人シェフ、ドミニク・ブシェ氏が監修する評判の店。フランス料理とホテルが好きならば、「ウェスティン都ホテル京都」に泊まって「Le RESTAURANT」でコースを満喫したいところだ。

ウェスティン都ホテル京都3階に位置する、Dominique Bouchet Kyoto「Le RESTAURANT」の店内

伝統を継承するシェフ、ドミニク・ブシェ

 ドミニク・ブシェ氏は、フランス料理界では誰もが知る大御所シェフ。そのキャリアはまさに華麗だ。故ジョエル・ロブション氏の右腕となったのは1974年、何と22歳の若さ。それから「ジャマン」(当時ミシュラン二つ星)のシェフを経て、1981年には若干29歳で「トゥール・ダルジャン」(当時ミシュラン三つ星)のシェフに就任。そしてパラスホテル「ホテル・ド・クリヨン」の総料理長として活躍した後、2004年に独立してパリ8区に「レストラン ドミニク・ブシェ」(一つ星)を開業。2013年に銀座にオープンした「ドミニク・ブシェ トーキョー」は、開業後わずか4か月でミシュラン二つ星を獲得した。そんなブシェ氏が大切にしているのは、もともとフランスの家庭で時間をかけて作られていた料理の数々をガストロノミーに昇華させ、次世代へ継承することだという。

コースの最初に登場するアミューズのプティ・サレの一例。「豚足とフォアグラのクロケット」「カマンベールチーズのマカロン」「ビーツのムース」

 2019年12月に京都にオープンした「Le RESTAURANT」で腕を振るう谷口竜也氏は、ウェスティン都ホテル京都で長年活躍するシェフ。開業前に銀座の「ドミニク・ブシェ トーキョー」で研修を受けた谷口シェフが作るのは、ドミニク・ブシェ氏のスタイルを踏襲したエレガントかつあたたかみのあるフランス料理だ。

前菜「雲丹とキャビアを添えたオマールブルーのジュレ」。ディナーコース「アルモニ」(17,800円)と「ディネ」(23,500円)に+6400円で追加できる。ランチでもリクエスト可能(予約時に要相談)。皿の周りに飾られた根セロリのピュレとキャビアは24個。フランスの24時間時計をモチーフとし、1日を表現したデザイン

ソースと共に楽しむフランス料理

 ディナーの前菜「雲丹とキャビアを添えたオマールブルーのジュレ」は、ドミニクシェフのレシピで作られるスペシャリテ。オマールブルーは、弾力のある身に旨みと甘みが詰まったオマール海老の最高峰だ。そのエキスが凝縮したジュレをすくい、ブルーオマールの身とウニ、キャビアと共に口に運ぶと、濃厚な旨みが舌に広がり、潮の香りが鼻腔に抜ける。

メインディッシュの魚料理の一例「イトヨリ鯛のファルシ コンソメ ド ブッフ」。ディナーコースは2種類あり、6品の「ディネ」(17,800円)と7品の「アルモニ」(23,500円)。「ディネ」のメインディッシュは魚料理または肉料理を選択。「アルモニ」では魚料理と肉料理が両方供される

 メインディッシュの魚料理は、旬の魚をクリアなソースで活かすことが多く、イトヨリ鯛には芳醇なフォン・ブラン(鶏の出汁)のソースが目の前でたっぷりとかけられる。イトヨリ鯛の身の間に詰められているのは、ドライトマトとバジル、イカ、エビ、オリーブ。それらの酸味や旨みや爽やかな香りが、白身魚のあっさりとした旨みを引き立てる。

メインディッシュの肉料理「和牛フィレ肉のロティ」。フィレ肉の下に敷かれているのは、ルタバガ(黄かぶ)のスライスでパースニップのピュレを包んだラビオリ。皿の中央はエシャロットのコンフィ。フィレ肉の代わりに神戸牛サーロインを選択することも可能。また「牛テール」の煮込みに変更することも可能

 「和牛フィレ肉のロティ」は、ディナーコースの定番の肉料理。何度も休ませながら焼くことで濃厚な旨味を閉じ込めた和牛フィレ肉は、しっとりとなめらかな口当たり。フォンドボーにポルト酒を加えて煮詰めたソースをかけると、ソースの香りが肉の香りを引き立て、いかにもフランス料理らしいエレガントな味わいが楽しめる。

 谷口シェフいわく、ソースはブシェ氏が最もこだわる部分。「フォンドボー」を作る際は、仔牛の骨と野菜を10〜12時間かけて煮込む間、つきっきりでアクを取っているとか。そうやって手間を惜しまずに作り上げたフォンドボーにはしっかりとした味わいがあるため、これをベースに用いることで余計なクリームを足す必要がなくなり、艶やかで軽い仕上がりのソースができるのだとか。

 ドミニク・ブシェの料理は見た目も味わいも現代的でエレガントだが、その核にあるのは伝統を敬い、いつくしむ精神。先人が築き上げた文化を愛するフランス人シェフの心は、古いものを大切にする京都の空気とも相性が良いようで、東山を眺めながらコースを堪能すると穏やかな満足感に包まれる。

SPA「華頂」の女性用半露天風呂。男女ともに半露天風呂と内湯、ジャクジー、サウナがある。半露天風呂の空間に取り入れられた優雅なアーチのモチーフは、琵琶湖疏水の水路閣(水路橋)と重なるデザイン。スパ全体には、村野藤吾らしい柔らかなフォルムや、水の流れを感じさせる不定形なフォルムが使用されている

天然温泉のSPA「華頂」

 さて、ウェスティンはウェルネスに積極的に取り組んでいるホテルブランド。「ウェスティン都ホテル京都」に宿泊する楽しみのひとつは、食後にスパでくつろげることだ。敷地内で掘削した天然温泉を利用したSPA「華頂」は、2100㎡もの面積を誇る京都最大級の温浴施設。「華頂山」に続く庭園と一体となったエリアに置かれた浴槽では、水流の音を聞きながら入浴することができる。

東山の自然を望む「ジュニアスイート平安京ビュー」(約59〜66㎡)。内装は南禅寺の新緑と水路閣のテラコッタ色をテーマカラーとし、明治から昭和初期の南禅寺界隈の別宅を意識したエレガントモダンな雰囲気。1泊¥115,000〜 https://www.miyakohotels.ne.jp/westinkyoto/ TEL. 075-771-7111

 リニューアルによって広くなった客室のインテリアは、村野藤吾氏の建築の優美さや曲線美を踏襲した、エレガントモダンな雰囲気。ベッドはもちろん、ウェスティンホテルが誇る、「雲の上の寝心地」を体験できるヘブンリーベッドだ。ゆったりした客室のヘブンリーベッドで迎える東山の朝は、実に清々しく爽やかである。

ホテルの裏山・華頂山一体に位置する「探鳥路」は、バードウォッチングや森林浴を楽しめる散策コース。ホテル内には京都市文化財(名勝)に登録されている小川治兵衛氏及び小川白楊氏作庭の庭園などもある