今回の試乗会では一部公道ではない場所が用意されていて、そのポテンシャルの一端を垣間見ることができました。アクセルペダルを床まで踏み込むいわゆる「全開」を試してみると、それまでは「バッテリーのせいでやっぱりEVは重いな」という印象は一瞬にしてはるか後方にすっ飛んで、身体がシートにのめり込むくらいの前後Gを受けながら疾風怒濤のごとき加速を見せました。
電気で動くモーターはエンジンと違って瞬時に最大トルクを発生することができるので、クルマだけでなく急に路面も動き出し、まるで動く歩道の上を加速しているようなスムーズかつ圧倒的な速さでした。“4MATIC+”とは4輪駆動を意味し、EQS 53では前後にそれぞれひとつずつのモーターがあって前輪と後輪を駆動します。駆動力配分は状況に合わせて随時可変するタイプで、このシステムのおかげで強力なパワーでもタイヤが路面をしっかり捉え、最適なトラクションが確保されるので全開時でも抜群の安定感を示してくれました。
全長が5mでもよく曲がる
サスペンションはEQSと同じエアサスですが、電子制御式ダンパーのみAMG GTの4ドアのそれに交換されています。EQSよりも減衰力が高くなり、ボディの動きが抑えられ、旋回時の姿勢変化は少なくなっています。加えてEQSと同様にこのクルマにも後輪操舵機構が標準装備されているので、全長が5m、ホイールベースが3mを超える大きなボディでも、そこまでのサイズを感じることなくよく曲がります。約2.5トンという車両重量はパワーで、大きなボディは後輪操舵で、それぞれの欠点を相殺しているようなクルマでした。
EQS 53には“AMGサウンドエクスペリエンス”という機能も備わっています。これはスポーツやスポーツ+のドライブモードを選ぶと、スピーカーからエンジン音ともモーター音とも異なる独特のサウンドを発生させるというもの。「クィーン」とか「クォーン」といった音が耳に届き、スピーカーは室外に向けても取り付けてあるそうで、車外でも聞こえるようになっています。スポーツカーと言えば時に勇ましく時に官能的なエンジン音もその魅力のひとつですが、エンジンも排気管もないEVでは、このような演出が今後もさらに広がってくるかもしれません。
個人的には最初のうちはアニメに出てくる宇宙船のような音だなと思っていたものの、次第に「悪くないかも」と慣れてしまいました。音の感じ方は人によってさまざまなので、機会があればぜひ1度実際に聞いてみてください。