文=渡辺慎太郎

メルセデスのスポーティ仕様を手掛けるAMGが、EVのEQSをベースに開発したEQS 53 4MATIC+。2022年度中には日本にも導入予定

4つのブランドを展開するメルセデス・ベンツ

 メルセデス・ベンツはメルセデスEQ、メルセデス・マイバッハ、そしてメルセデスAMGと合わせて4つのブランドを展開しています。メルセデスAMGは主にスポーティなモデルを担当しており、彼らが初めて手掛けた電気自動車(EV)がこのメルセデスAMG EQS 53 4MATIC+です。

 そもそもAMG(「アーマーゲー」ではなく「エーエムジー」と呼ぶのが正解)は、メルセデスの車両に手を加えてレースなどに参戦するチューニングメーカーでした。1967年に誕生し、創業者のハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとエンジニアのエアハルト・メルヒャー、そしてアウフレヒトの生まれ故郷であるグロースアスバッハのそれぞれの頭文字を取って「AMG」としたのが社名の由来です。数々のレースで輝かしい戦績を残したAMGの技術力はメルセデスからも認められるほどとなり、1999年に当時のダイムラー・クライスラーに吸収され、2014年からメルセデスAMGという現在のポジションに至っています。

 彼らのビジネスは商品企画や車両設計開発、エンジンの開発と製造がメインで、メルセデスの本社があるシュツットガルトにほど近いアファルターバッハという町に拠点を構えています。現在、AMGのすべての車両の生産はメルセデスの工場が担っていますが、エンジンだけは自社工場で生産を行っており、ひとりの熟練工が1機のエンジンを組み立てる「ワンマン・ワンエンジン」が慣習になっています。エンジンに彼らのネームプレートが貼られているのは、そのエンジンに対する責任とプライドの証でもあるのです。

 

エンジンの代わりに特製のモーターを用意

 そんなAMGがエンジンのないEVを仕立てるといったいどうなるのか。彼らは特製のエンジンの代わりに特製のモーターを用意して、ノーマルのEQSのそれと置き換えました。さすがにエンジンのようにモーターも自社工場で組み立てるわけにはいかなかったようで、設計や仕様設定はAMGが行い、サプライヤーから供給を受けています。パワースペックはEQS 580の523ps/855Nmに対してEQS 53は658ps/950Nmと公表されていますが、オプションの“AMGダイナミックプラスパッケージ”を選ぶと761ps/1020Nmまで上乗せされます。

モーターをAMGのオリジナルに変更し、オプション装着車で761ps/1020Nmというとてつもないパワーとトルクを発生する。いっぽうで、ボディ剛性が高く賢い4輪駆動システムのおかげで、抜群の安定感を誇る

 一般的に最大トルクが500Nmを超えると日本の交通事情下では完全に持て余すことになります。EQS 53は100km/hに到達するまでの時間はわずか3.4秒なので、一般道の法定速度である50km/hや60km/hには信号が青に変わってからおそらく2秒もかからないでしょうから、アクセルペダルの操作には慎重にならざるを得ません。持て余すとはつまりこういうことです。