無料でレシピを公開する理由

 昨今、プロのレシピを有料公開している動画サイトもある。しかし、鳥羽さんはすべてのレシピを無料で公開することにこだわっている。

「いま、コロナ禍を経てなお、困窮している人たちがたくさんいます。こんな時代にたとえば数百円の課金をしてレシピを公開して、助かる人がどれほどいるのでしょうか。だから、より多くの人を幸せにするため、僕は無料でレシピを公開することにこだわりました」

 また、軽い気持ちでYouTubeを始めても「絶対に伸びない」と鳥羽さんは断言する。

「世の中の人が見てくれて集客につなげてこそのSNSだから、そこは本気です。どんなに疲れていても毎週だいたい2本、ノルマの本数を公開します。もちろんプライベートをさらす面もありますから、背負うものを背負い、覚悟をもってやっています」

 もちろんアウトプットしたものが、世の中に届かなければ意味がない。そこで鳥羽シェフ率いるシズる株式会社では、SNSでの発信を前提として社員を採用。社員全体ではTwitterのフォロワー数が50万以上にもなるので、その拡散力はすさまじい。また、鳥羽シェフは、もらったコメントにたいして自分でリプライをつけることを徹底している。社員にたいしても、ただのリツイートではなく、自分でコメントを添える“引用リツイート”をすすめている。

「ただのリツイートでは誰も読んでくれません。自分の心を込めた文章を書くことで、はじめて発信力が生まれます。すべては相手にどう伝え、どう感じてもらえるか。“フォロワーを増やしたい”という目的よりも、他者を思いやり、相手の気持ちに添える努力を積み上げていくことがたいせつです。すべては “愛”です。愛こそが、世界をハッピーにする。だからこそ覚悟をもって腹をくくり、世の中をハッピーにすることを我々の使命と考え、本気でSNSにも向き合っています」

 

鳥羽周作 (とばしゅうさく)
「sio」オーナーシェフ。1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界に入る。2018年オープンの代々木上原「sio」はミシュラン一つ星を3年連続獲得。業態の異なる6つの飲食店を運営。店のレシピを公開した #おうちでsio が話題になる。『幸せの分母を増やす』がモットー。