フランスを代表するハイジュエリーメゾン・ショーメの「フランスと日本文化のConversation―ショーメのサヴォワールフェールと日本の名匠3人との対話」と題したイベントが、11月28日まで特別一般公開される。日本初披露を含むショーメのジュエリーと、日本の伝統芸術の匠たちが手掛ける作品をテーマごとに紹介するというイベントの狙いとは?
取材・文=中野香織
ハイジュエリーと日本文化の対話
007の最新作「ノータイム・トゥ・ダイ」でベン・ウィショーが日本の前掛けを着用して登場したとき、MAEKAKEはクールでユニークなアイテムとして一躍、世界中から注目を浴びることになった。
そこに至るまでの経過は、このアイテム一本に絞ってプロデュースしてきた西村和弘さんが『MAEKAKEを世界へ ~コロナ下でのパリ・メゾン挑戦~』のなかで具体的に書いているのでそちらをお読みいただくとして、江戸時代から続いてきた「帆前掛け」が、コンテクストをがらりと変えるだけで、こうも時代の先端をいくアイテムに見えるものなのかと驚きを感じた。
連綿と続いてきた伝統は、思ってもみなかった場に現れることで、従来の文脈では気づかれにくかった現代的な魅力を引き出されることがある。
「007×前掛け」の延長上に語るのも憚られるのだが、圧倒的な歴史の重みと格の高さを誇る「ショーメ×日本の3名匠」においても、似た感慨を覚えた。
1780年にパリで創業し、「ナポレオンとジョセフィーヌの公式ジュエラー」として名声を築き上げてきたショーメが、竹芸、盆栽、刀剣といった日本の伝統技術を継承する3人の名匠と「対話」する展示が一般公開される。どちらの世界も、多くの人にとっては敷居が高く、直に目にする機会がきわめて少ないのではないのではないかと思う。恥ずかしながら無知を告白すると、そもそも「竹芸」という世界があることを私は知らなかったし、盆栽は一部の愛好家のものとして敬遠していたし、ましてや刀剣がいまなお新しく作り続けられていることを実感として認識していなかった。
それが! 精緻な職人技術が施された時を超える存在感をもつショーメのジュエリーと「対話」することで、竹芸、盆栽、刀剣はそれぞれの本質的な魅力を引き出され、現代的な意味をもつ技芸として堂々と輝きを放っているのだ。ひるがえって、それぞれの伝統技芸が、ショーメの普遍的な価値を引き立て、未来に継承されるべきジュエリーの力をさらに増幅させている。
対話の場として選ばれたのは、横浜・三溪園のなかにある「鶴翔閣(かくしょうかく)」という歴史的建造物である。鶴が飛翔する印象の外観からこのように名付けられた。1902年に原三溪が自らの住まいとして建て、横山大観や前田青邨といった日本画家たちが集う文化サロンとしての役割も果たしていたという。現在は横浜市指定有形文化財になっている。時空を超えたフランス文化と日本文化の「対話」の場として、この上なく理想的である。