時空を超えて引き立て合う東西の至宝

 展示は3つのパートに分かれる。三人の名匠それぞれの作品と相通じる技巧や精神性をもつショーメのジュエリーが、対話するかのように展示される。

 まずは竹芸家・四代 田辺竹雲斎。竹をしなやかに組んで編んで築き上げる巨大な立体にまずは驚かされる。

CHAUMET×四代田辺竹雲斎

 そのテクニックは、実はショーメのジュエリーにも使われていることがわかる。メゾンの技である「フィル クトー」は、ナイフの刃(クトー)のように薄い線(フィル)でパーツをつなぎ合わせて、宝石が宙に浮いているように見せる高度な技術である。このショーメの技術に時空を超えて呼応するかのように、田辺竹雲斎は竹を編んで近未来的な竹のオブジェを創り上げる。横の空間からオブジェを見ると、そのなかにショーメのジュエリーそのものが宙に浮いているように見える。

 大きさの規模も素材も違うけれど、そこには、ある一芸の奥義に達した作り手のみが到達しうる高い精神性がひびきあい、見ているこちらの気持ちまで引き上げてくれるような清澄な空気が流れていた。

 そして盆栽の木村正彦。100年、あるいは1000年を超える樹齢の木を使った盆栽は、手入れを続けることで長い歳月を生き、命脈を保っている。樹の白い部分は「死んだ木」だという。木村正彦は白い死と褐色の生を複雑にからみあわせ、常に緑を絶やさず育て続けることで、未来まで続くであろう幽玄な永遠の世界を創り上げている。

CHAUMET×木村正彦

 一方のショーメは、数十億年も大地の奥底で眠っていた石を選び抜き、カットし、磨き上げ、未来に引き継がれる永遠の価値を与える。石に人の手を加えるラピデール(宝石細工)の技によって幻想的な輝きが引き出されたジュエリーが、盆栽に並置される。

 ともに、変わりゆく時代のなかに生きる不安を抱える人間に、ゆるぎない永遠を感じることの意味を教えてくれる。

 三つめのパートは、刀の匠である月山貞利、月山貞伸。刀剣は今も脈々と作り続けられており、最近ではゲームとのコラボ展で若い人にも日本刀の美しさが知られるようになっているという。月山派が鍛えた刀身には、綾杉肌と呼ばれた模様が浮かび上がる。刀身に彫り物をするのも、月山派。800年にわたる金属の芸術を受け継いでいるのだ。

CHAUMET×月山貞利・月山貞伸

 一方、ショーメの創業者、マリ=エティエンヌ・ニトは金細工に秀でた人であった。極限まで薄く引き伸ばしたゴールドで、フォルムを大胆に形作る技「オルフェーヴル(金細工)」の伝統をショーメは今なお正しく守り伝えている。

 再現した室町時代の刀の細部を解説してくれた月山貞伸は、「刀も、宝石も、権威の象徴として重んじられてきたという意味では、相通じるものがあるのです」と語る。かつては「斬る」ための道具でもあったけれど、現在ではその役目を終え、歴史や伝統を静かに伝え続けるために、ただ神聖に、そこにある。

月山貞伸さん

 時空を超えて引き立て合う東西の至宝の数々が、日本の近代文化を育ててきた歴史的建造物のなかで、ガラスケースに入れられるわけでもなく、間近に見ることができるという至福。

 コンテクストを大胆に変え、時空も超えた意外な相手と協働することで、潜在していた力が引き出され、全方向に良い影響をもたらすという実例を立て続けに見た。偶然だったのかもしれない。しかし、コンテクストが変わることで、固定観点にとらわれたまま理解していたものがまったく異なる見え方をするのは確かである。コンテクストを変えてみるということ。埋もれかけた文化、停滞していたビジネス、飽き始めた企画や人間関係があるとしたら、あきらめてしまうまえに、少なくとも試してみる価値はありそうだ。そんな希望までわいてくる。