そしてもう一つ大切な、グラデーションを生み出す美しいカラーですが、彼らが今まで開発し使用してきたカラーのなかで、最も効果的に美しさを表現できる組み合わせを探り何度も試作を重ねました。東京と鹿児島、遠く離れた場所で薩摩びーどろ工芸と辰野しずかさんのやりとりは重ねられ、同時に絆を深め、美しく輝く「grad.(グラッド)」を生み出しました。

カット面のグラデーションがきれいに見えるよう丁寧に磨いていきま

 

あたらしい道を模索して見えたこと

 今までにない取り組みに挑んだ、薩摩びーどろ工芸の吹き師の野村誠さんと切子師の鮫島悦生さんにお話を伺うと、「とにかく初めての事ばかりで手探りしながらでとても大変でした」と、おっしゃいました。それでも諦めず進んだことは、薩摩びーどろ工芸が持つ、薩摩切子を広めたい、今までにない新しい薩摩切子でこの工芸を未来につなげたいと思う心からだと思います。復刻されて35年ということもあり、工房の平均年齢は35歳と若く、常に未来を見ているのかもしれません。

大切な方々をもてなすテーブルに欠かせない酒器や食器として幅広くご活用いただけます

 また、新たなチャレンジのおかげで、吹き場とカット場のコミュニケーションが前より活性化し、会社自体の連帯感が高まったともおっしゃっていました。

 工芸の産地を数多く見てきた辰野しずかさんならではのアプローチは、薩摩びーどろ工芸の目指す未来とうまく重なり、新たな風を吹き込み、これから起こすべきアクションを具体化していくのかもしれません。実際、オンラインなどに全く不慣れだった彼らですが、緊急事態宣言ということもあり、今ではZOOM会議を難なくこなし、オンラインストアも開設し、新作「grad. ice(グラッドアイス)」をオンラインで発表という試みも行っています。

 

未来につなげる薩摩切子

 35年前に島津薩摩切子で復刻を果たした薩摩切子、同じタイミングで島津薩摩切子も見事な新作を発表しています。従来の薩摩切子らしい商品です。同時に全く違うアプローチで、彼らの持つ技術を表現する商品の発表を行なった薩摩びーどろ工芸。

 復刻をベースに商品開発を進める島津薩摩切子と、復刻と技術を元に新しい未来を切り開く薩摩びーどろ工芸の2つの姿勢は地域で復刻された薩摩切子にとってたくさんの可能性を広げているような気がします。

 鹿児島の豊かな自然の中で真摯に製作を続ける薩摩びーどろ工芸の持ち続ける熱量は、中規模な工房で、フットワークが軽く、チームの連帯がしっかり取れていることから生まれてくるのだと思います。その力は今までもつ常識に囚われず、辰野しずかさんというクリエーターとの新しい試みもチャレンジできたのだと思います。

 この気持ちを一つにした地域の中小規模の取り組みと、それを支えるデザインやマーケットをうまくまとめることができるクリエイターとの出会いは、リモートワークが可能となった今、特に広がりを見せていくのかもしれません。

 幕末の頃、日本人がまだ見ぬ海外の新しい情報や、商品をいち早く取り入れ、この国の未来を見据えていた島津斉彬公もきっと喜んで見くださっているはずです。

オンラインストアでは「grad. ice(グラッドアイス)」以外の薩摩切子商品もご覧いただけます