文=鈴木文彦 写真提供=MHD
世界最古のシャンパーニュ メゾン「ルイナール」が2021年7月下旬から新しいパッケージを採用している。その名をセカンドスキンという。
持続可能性の追求
「ルイナール ブラン・ド・ブラン」と「ルイナール ロゼ」に採用された新パッケージ「セカンドスキン」は、え、これがパッケージ? と驚くシンプリシティだ。特徴的な形状のルイナールのボトルが、浴衣を纏うかのように、紙の外装にぴったりと包まれているだけなのだ。
ルイナールといえば高級・少量生産のシャンパーニュの造り手。ルイナールに限らないけれど、こういうシャンパーニュは、ギミックに溢れた豪華なボックスに入っているのが世の常。だから、箱がない、というだけでも驚く。
2年をかけ、7回の試作を経たというこの新パッケージ、セカンドスキンの誕生には、サステイナビリティへの取り組みが関わっている。
シャンパーニュ地方の造り手は現在、さまざまなアプローチでサステイナビリティを考えた取り組みをしている。シャンパーニュ地方全体でも「シャンパーニュ地方における持続可能なブドウ栽培」という認証を設けて、産業構造の変革を後押ししている。
スパークリングワイン造りには、しっかりと熟し、凝縮していながら、活き活きとした酸味をもったブドウが必要だ。北方の冷涼な気候が、そういうブドウの栽培に適していることがシャンパーニュがスパークリングワインの王者であるひとつの理由なのだけれど、温暖化の影響はシャンパーニュとて無縁ではない。
現在はまだ、対処可能な範囲におさまっているし、寒すぎないでむしろよい、とするポジティブな造り手もいるけれど、今年4月にフランスのワイン産地を襲った急激な気温低下、毎年の読めない夏の日照りなど、ほんの数日の不安定な気候が成長中のブドウに致命傷を負わせることすらある。温暖化は、単に年間平均気温がすこし上がった、というだけでは済まない問題だということは造り手たちが一番よくわかっている。
「いまが緊急事態だと認識しています。環境を保全するために、できる手は迷わず打つようにしています。」
とルイナールは言う。
そういうルイナールだから、すでに、電動式トラクターの採用、畑でのブドウ樹以外の植物の植樹による生物多様性の確保、殺虫剤・除草剤の不使用、ワイナリーでは自然エネルギーの使用やリサイクル率99.7%(!)の達成など、畑、ワイナリーでできることはやってしまっている。さらにルイナールは、シャンパーニュを熟成させるセラーが、メゾンの地下38 mにある、白亜質の石でできた古代の石切り場跡「クレイエル」と名付けられたトンネルであることでも有名で、ここでは、温度も湿度も、自然とシャンパーニュの保管・熟成に最適なものとなる。つまりもともとエアコンなどついていない。ついでに、このクレイエルを照らす照明は、LEDに交換済みだそうだ。
流通においても、10年前から飛行機を使った商品輸送はやめていて、同社の半分くらいの市場であるフランスでは、60%のボトルが電気自動車や人力で運ばれている、という徹底ぶり。
こういう造り手だから、パッケージにメスを入れないわけがないのだ。
機能・ギミック・見た目を犠牲にしない
このセカンドスキンは、パッケージとしてのビジュアル的インパクトだけでなく、機能的にも優れている。
持続可能な管理がなされているヨーロッパの森林から得られた木材を原料とする紙には、耐光性を確保するため、保護層としても機能するよう天然の金属酸化物が添加されていて、それが、ボトルをぴったりと包み込む形状にウォータージェットで加工されている。
ルイナールのRのイニシャルが刻まれた、側面のボタンのようになったところを外すと、セカンドスキンが開いて、いつものボトルが顔を出す。とはいえ、セカンドスキンを纏った状態でも、ネックの部分は露出しているし、先述のルイナールのセラー「クレイエル」の壁面をイメージソースとする、真っ白で、少し筋が入った表面は、美しいだけでなく、手触りも持ったときのすべりづらさも、ガラス表面よりもいい。わざわざ、飲むときにセカンドスキンを外す必要はないのかもしれない。耐水性もあるというから、パッケージのまま「ドブ漬け」してしまってもいい。裸の状態よりは保温性も期待できるだろう。
ギミックがあり、機能的で、美しく、かつ、ブランドの世界観を表現している。
肝心の環境性能はというと、重量わずか40gと、従来型のボックスの9分の1。フランス環境エネルギー管理庁「ADEME」およびエネルギー効率局「BEE」のパッケージの環境アセスメントの方法論に基づく評価では、梱包におけるCO2の排出の60%を削減できるのだそうだ。
我々、消費者はこれを受け入れるだろうか。それによって、ルイナールの取り組みの価値が決まる。