文=鈴木文彦 写真提供=ジェロボーム
ワインというのは歴史的にいっても、政治や経済の影響をまともに受けやすい。パンデミックもまた、ワインに様々な影響を与えている。日本では非常事態が常態化しつつあるのはみなさんご存知のとおり。そんななか東京は青山に、独特なワイン店がオープンした。ここは、ワインの将来を占う場所となるかもしれない。今回はその影響と変化、今後の展望をワインの輸入会社ジェロボームの代表のカール・ロビンソンさんに伺った(全2回)。
なぜ今、高級ワイン店を立ち上げたのか?
新型コロナウイルスの蔓延によって、ワイン業界の様相は随分かわった。よく言われているのは、コンビニやスーパーで買えるワインはとても良く売れ、一方、飲食店が主戦場となっていたワインは動きが鈍い、という話だ。なにせ、飲食店がやっていなかったり、アルコールの提供に制限がある状況が、もう随分、日本では続いているからだ。
「低価格のワインがよく売れる、という状況は前からそうだったとも言えます。ビバレッジとしてのワインは市場規模が大きい。みんなが家で飲むワインは、そういうワインがメインでしょう? いまはそこに脚光をあたっているだけ。そこは、もともと、私たちのビジネスじゃない」
と語るのは、ワインの輸入会社ジェロボームの創業者にして代表のカール・ロビンソンさん。本社を移転すると同時に、本社の横にワインショップ(ザ・ブティック)とそのワインをそのまま飲めるレストラン(ザ・サロン)からなる「セラードア青山」という施設をオープンさせた。
「確かに、タイミング的には悪かったかな。ブティックは7月末にオープンしたけれど、いまだにサロンはオープンできていない。でも、これは5年前から計画していたことで、立ち止まるつもりはありません」
ジェロボームという会社は、2003年に、
現代表のカール・ロビンソンさんは、イギリス生まれ、
「ジェロボームは量を売って儲けようという会社ではないです。創業時から、ヴィジョンは変わっていない。私達は、ファインワインを扱う。造り手とともに、その造り手のワインを手に取る人にブランドを知ってもらい、よいコンディションのワインを正当な価格で届ける」
ワイン好きならたまらない「スター」揃い
いまや70ちかい、基本的に家族経営の高品質なワイナリーのワインを輸入するジェロボーム。そのラインナップには、ワイン好きならば心躍るスターが勢揃いしている。セラードア青山に並ぶのはそんなワイン。
しかもその陳列方法は、ワインショップといって通常イメージするそれとはだいぶ違う。イタリアとかフランスとかいった国名を表示するカードが棚にくっついているわけではないし、それぞれのワインには、フルボディとか、誰々が絶賛!とかいったわかりやすいタグがついていたりもしない。天井が高い、プラスチックフリーでクリ-ンな店内の壁面に棚があって、その棚には、造り手の名前と、それがどんな造り手なのかが英語で説明されたカードがついている。そしてそのカードの横にずらっと、その造り手のワインが、静かに、お上品に並んでいるのだ。
自白すると、筆者は他のワインショップでは経験したことがないほど、このワインの演出にときめいた。興奮のあまり、お店の人に、この造り手は、こういう人で、こんな風にワインを造っていて、とうんちくを語り、並んでいるワインをひとつひとつ見て、え、この人、こんな品種でワイン造っていたの? あれ、このヴィンテージもあるんですか? とすっかり支離滅裂な状態になってしまった。お店の人は、このワインの輸入者であり販売者なのだから、筆者に言われるまでもなく造り手のことをよく知っている。そんな筆者にスタッフは優しくその造り手のことを話してくれたのだった。
ラグジュアリー・ワイン・ブティック
ちょっと恥ずかしい気持ちもあるけれど、ワインの話ができるのはワイン好きにとっては楽しい。ワイナリーを訪れたとき、造り手と会話をして、醸造所から貯蔵庫(セラー)と見学して、貯蔵庫のドアを出ると、その造り手の作品が一堂に会した試飲ができる直売所がある。その場所を、セラードアと呼んだりもするのだけれど、ここは、セラードアの集合体のようだ。
「そうですね。ここを呼ぶならブティックです。ラグジュアリーブランドのファッションや家具、時計のブティックのイメージ。そういうところにわざわざお客さんが来るのは、ブランドの世界観を体験し、ブランドと繋がり、関係性をもちたいからですよね。気に入るものがあればそこで買って帰ってもいいけれど、ショッピングがブティックの全体でも本質でもない。買いたいのならば、あとでブティックに電話をして買ってもいいのだし。
ブランドとの関係性が重要なのです。ブランドと仲が良ければ、イベントやコミュニケーションの機会に誘われることもあるでしょう。そういう経験も含めてブランドです。ここで売っているワインには10万円以上のものもあります。それってもう、ワインの値段としては高すぎる。そこには、ブランドとのつながり、体験が含まれているのべきではないでしょうか」(続く)