文=吉村栄一

2019年ヨルダンにて(撮影=田辺佳子)

──そして、いま制作中の新しいソロ・アルバムについて教えてください。

「今年、当初は複数の女性ヴォーカリストやジャズ・ソウル畑のプレイヤー達とのコラボレーション・アルバムを作る予定だったんです。まさに3月からそれを作るつもりでいたら、パンデミックの影響で対面でのセッションというスタイルが不可能になってしまった。海外へもレコーディングと撮影で行く予定だったんですが、それももちろん不可能で、そのアルバムの予定はとりあえず棚上げにすることにしたんです」

──そこでもコロナ禍が影響したんですね。

「そうなんです。そういう中で、ソロとしていま自分はどんなアルバムを作り出せるんだろうと考えた結果、“ポスト・パンデミックの世界に満ちる光、そしてそこに流れる救済の音”を生み出すべきだと思った。いままでトライすることがなかったヒーリング・ミュージックのアルバムになります。ギタリストである僕がいま作るヒーリング/アンビエント作品。それをいまレコーディングしています」

──へえ!

「なんとか9月中には完成させて、年内には発表するつもりです。疲れ切っている人々に対しての魂の救済になる音、深呼吸をさせてあげられる音、そういうものになります」

──なんだか象徴的な気もしますね。いま、本当に多くの人が経験したことのない非常事態ですし。

「非常事態だからこそ生まれてくるインスピレーションもあると思っているんです。このワサワサした状況の中だからこそ生まれてくるものも多くある。いまは決してハッピーな状況ではないんだけど、モノを創る人間って、ハッピーな状況からのみインスピレーションや創作意欲を得るわけじゃない。自分の場合も、この何十年で起きたあらゆる社会的、私的な出来事からつねに影響を受けています。多くの人がそうじゃないかな」

──中世ヨーロッパでのペストの流行がルネッサンスの遠因になったという説もありますもんね。

「いまのコロナのパンデミックって、まちがいなく全人類にとっての試練。それは僕らが成長するための試練なんだと、ポジティヴにとらえたい。心の成長、文化の成長、人も社会も次のレベルに行くために課せられた試練だと僕は認識しています」

2018年パレスチナにて(撮影=眞鍋孝太郎)

──つらい試練ですね。

「そしてコロナ禍が終わる社会が来たとき、みなが人間としてより成長していたい、賢くなっていたいと思っています。いまは恐怖や不安が蔓延し、人間社会のこれまでの膿が出ている段階で人々の醜さや弱さが露呈している。そういったネガティヴな要素を出し切っちゃえば、次の段階で起こることは魂の浄化だと思う。このコロナの社会を数ヵ月、数年がんばって過ごして、その後には乾き切った体に澄んだ美しい水が浸透していくようなイメージ。そういう音を作りたいと思っています。なので、これまでのSUGIZOミュージックとはかなり違ったものになるでしょう」

──この状況が終わるには数年かかるかもしれないという予感もある?

「はい、そういう悪い予感はあります。ただ、希望的観測としては完全に収束はしなくても、最低限の経済活動や、僕たちのようなエンターテインメント産業の活動はもう動くようになるんじゃないかな。その段階では様々な条件も付くかもしれないけど、なんとか回ってほしい。そして、これはある意味では絶望なのかもしれないけれど、コロナ・ウィルス自体が地球上から完全に消え去ることはないでしょう。コロナを退治したり駆逐するというのは、とても人類本位の考え方。数世紀前の感覚と言ってもいい。駆逐するのではなく、どうにかして人類社会はコロナと共存していかないといけない。それが人類が自然に抗体を獲得して共存することになるのか、ワクチンの開発成功によってなのかはわかりませんが」

──人類の歴史の上では一時は死の病だった疫病ともその後共存しているケースもいくつもありますもんね。

「そのために必要なのが免疫力を高めることでしょう。根本的なポテンシャルですね。そのために、ひとりひとりが自分の生活スタイルを見直す機会なのかな、と。もちろん、なにもなく平和に過ごしていければそれがいちばんだったんですけど。僕たちが生きているいまの世代にこういう大きな問題が発生したのは、深い意味があると思っています。人々が次の段階に行くための陣痛だとも思ってます。ただ、この陣痛は長いですよね。僕が生きているうちに人類は次の段階に成長できるんだと思うしかない。あるいはこの世代ではまだ難しくて、成長を促すためだけの役割なのかもしれないけれど」

──去年50歳を迎えて、いまは当然51歳。半世紀という時間を過ごしたことでやはり感慨はありますか?

「う~ん、あんまり意識はしていないけど、いつ死んでもいいように毎日を生きる。ま、これは以前からそうなんですけど(笑)。ただ、振り返るとよくここまでやってこれたなあという感慨はあります。人生も残り少なくなっていくので、できることは全力で全うしようという気持ちです。生き抜く覚悟というのかな。自分ができることを全うする。自分の存在意義に関する責任をよく考えます」

『聖誕半世紀祭 』初日(撮影=田辺佳子)

──そのためには?

「だから、遠慮することをやめようと思うんですよ。心の底からおかしいと思うことに関しては、口をつぐむのはやめる。声をあげるべきときは遠慮なく声をあげる。行動すべきときは行動する。いい意味で若い頃よりもタガが外れた。家族とか守るべき存在は当然あるけれど、自分に正直に、本音で生きたい。そういう気持ちにいまはなっています」

 

INTERVIEW WITH SUGIZO 了

 

 

INFORMATION
2019年、中野サンプラザで開催した自身初のBirthday公演『SUGIZO 聖誕半世紀祭〜HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.〜』を、 ソロキャリア初のライヴアルバム化。 ゲストに迎えた盟友達とのセッションを含め、 Day1&2のSGZ ライヴパートを二枚組で完全収録。

豪華版(数量限定発売)
CD2枚組、Blu-ray、特製ブックレット
発売:2020年9月30日(HMV&Loppi限定商品)
価格:8,470円(税込)

通常盤
CD2枚組
発売:2020年9月30日
価格:3,850円(税込)

 

PROFILE
作曲家、ギタリスト、バイオリニスト、音楽プロデューサー。 日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、さらに映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティビストとして知られる。

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